漆黒の月の宴 27
「でも、鴛洵はいい兄貴だったんだなー、何かと弟さん気にかけて」

「全くだ、それに比べて…どこまで出来の悪い弟なんだ? 妬むだけ妬んで何もせぬ。まったく話を聞くたびに何度ぶち殺してやろうかと思ったかしれない」

「言葉酷っ」

「事実だろうが。あげく、とことん自分勝手な妄想と誤解で歪んで凝り固まって――お前はあのとき、英姫のほかにただ一人すべてをみていただろう。英姫が何と言ったか、本当に思い出せないのか?」


仲障の脳裏に浮かぶ、あの日の光景――自分を追い越して、兄に駆け寄った彼女の叫んだ言葉。


そなたのせいではない!』


まるで、記憶を蓋していたものが壊れ、溢れ返る水のように思い出された記憶。


「……あ……」


そうだ――本当は、――兄が、したことは――。


「自分の信じたいものは、事実とは限らない。鴛洵はきっと何も言わなかったんでしょう。けれど、英姫さんと貴方だけは、知ることができたんですよ。彼処で何が起こったか、その真実を」


馬鹿馬鹿しいとばかりの、溜息が降る。


「だが、お前は今、愚かにも同じことを繰り返した。
茶春姫は、あのときの英姫と同じように駆けていったよ。今ならわかるだろう。鴛洵のあとを継ぐ者が、本当は誰だったのか」

「……う…嘘だ……」

「何が」

「嘘じゃない、鴛洵は、全てを守ろうとしていたんだ。間違えたのは最初、鴛洵の何もわかろうとせずにあいつを越えられるはずないだろ!」

「……」


何か言い掛けた霄太師の言葉も遮り、櫂兎は大きく声荒げ言った。


「……鴛洵……兄ぅ……わ、は……」


後悔に染まる、その顔に櫂兎は静かに言う。


「後悔は後でするから後悔って言うんだ。はじめから気付けていたら? それは無理な話。ただ――」


櫂兎は優しい微笑みを浮かべた


「ただ、俺の持論で、後悔した後、またやり直すのもありかなって思うわけだ」


仲障は、そのとき後悔の涙を初めて流した。最後の粒が頬を滑る前に、彼は静かにこときれた。


「………………そう上手くはいかないかぁ」


櫂兎は空を見上げた。今日は、やけに暗い、新月の夜。


「遅過ぎるんだよ」

「そう、かもね……うん、遅いも早いもないと思ってたんだけどなぁ」


それからくしゃりと笑った櫂兎の額に、足元にいた二号はぴょんと跳んで突撃した。


「〜ッ痛ぁ」


思わず額を抑える櫂兎をよそに、二号は跳ねて段々と闇濃くなる方――秀麗と春姫の向かった方へ転がりはじめた。


思わず手を伸ばしたところで霄太師に襟首掴まれぶらりと宙に浮く。


「なーにをやってるんだお前は」

「……若い瑤旋は俺より背が高い、だと」


衝撃の新事実に櫂兎が思いっきり顔を顰めている間に、二号の姿は転々と闇の奥へ消えてしまった。


「あ――――――っっ!!」

「なんだ煩いでかい声を出すな」


櫂兎を掴む手をパッと離して霄太師は耳を覆った。地面に落ちた後も櫂兎はしばらく叫んでは、わなわなと二号の消えた方指さしていた。

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空中三回転半宙返り土下座
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