石榮村の手前の村には三日も掛からず着き、順調に話も進み、終えた
「よし、村の衆にはまた、会合の際、全家庭で気をつけるよう言っておこう」
「ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げ、話を終えた櫂兎は深く息をつく。残るは石榮村ただ一つ、だ。……と、今まで話をしていた村長のそばに控えた青年が、まとまった話に不服そうな顔をして言った。
「村長さんっ、こんな得体の知れないのの言うこと信じるんですか?!」
不謹慎ながら櫂兎は、心の中でガッツポーズした。いかにもな態度とってくれる、余所者は信じられないタイプにここで初めて出会えた、こういうのを待っていたのだ。
「村の人々が水を煮沸しようとしまいと、私には損得何も有りません。それなのにどうしてそんな出鱈目言わねばならないんですか」
「そっ、それは…そう、だが……」
「池の水には、害をなす微生物や菌、寄生虫なんかがすんでいる場合あります。そういうものは大体は煮沸で滅せるもの、その寄生虫や寄生虫の卵も煮沸で無害になります」
「だ、だけど毎年平気で――」
「今年の冬は例年よりはやく冬狐の姿が見られるようになるはずです、その狐の体内にすむ寄生虫の類が、目に見えずとも池の水に含まれている場合があるんです。その寄生虫が体内に宿った場合、多くは死に至ることになります」
『さいうんこくげんさく』のなかでも、この辺りは結構うろ覚えだが、確かそうだったはずだ。
「して、旅のお方、どうしてそれが今年と分かったのですかな」
村長は片眉上げてふと思いついたように訊いた。
「それは……」
原作ではそうなったから、としか言いようがない。
「答えられないんじゃないかッ、やっぱり出鱈目――」
そう言いかけた青年を村長は制止する。
「しかし、嘘ではないのでしょう。貴方の眼は、嘘を言ってはいない」
優しい光をたたえた瞳で村長は言った。
「村長さん……」
俺、そんな目してるのか。信じてもらえるのが無条件すぎて、こんなに世の中生きやすくていいのかって後が怖くなるよ!
「村長…、でも、でもよ」
それでも尚、納得行かない顔をする青年に村長は溜息ひとつ零してから言った。
「哥喃、人というのは起こった後で思い知ることはあっても、予め知ろうとするのは難しいものなのだよ。だからこそ、あらゆるものはまず信じてみることだ」
「……」
「簡単に言おう、お前は虫食いたいか?食った虫が体ん中で成長して腹ぁ食い破って出てきてもいいのか?」
語調あらく鋭い声で言った村長の言葉に、青年の顔が真っ青になった。そしてぶるんぶるんと首を振る
「……いや、あの、お腹食い破りは、しないかな、なんて」
でっぱりはするけれど。
「何はともあれ、よくはないでしょう。可能性あるなら、潰すに越したことはない、でしょう?」
元の穏やかな調子に戻って村長は言った。随分印象が違うことに櫂兎は唖然とする。
しかし彼の女装中と普段の差もこんなものだということを、彼は知らない。
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