「長老――っっ!」
(えええ嘘だろ――ッ?!)
おんおんと泣き出した周りの人々に櫂兎は動揺しつつも、死亡確認をしてみる。
脈をみて、心臓が動いているか確認……するまでもなく呼吸を――している。
彼は確実に生きている。
男泣きしている男衆や、後からやってきては様子見て長老が死んだものと思い顔青ざめさせる者、子供が小首傾げて「ちょーろーねんねしたのー?」の問いに泣きながら「永いおやすみするのよ」と言い聞かせる母親。
「あのー、皆さん…この長老さん、ちゃんと生きてます」
「……………えっ」
その言葉に誰もが驚きの声をあげる。その中でも一番驚いていたのが、目をぱちっとあけた長老本人だった。
「わしは生きとるのか!?」
そこに丁度、ここあたりの村唯一の医者が連れてこられる。しばし診察され、腰に触れられたところで長老は呻く。そして医者の言葉――「重いものでも持ったんですか? ぎっくり腰です」
皆がホッとするなり拍子抜けするなりしたところで、医者の後ろからひょこりと老婆が顔出す。
「お前さん、まぁた死んだと思うたんか。息しとること確認せえとずっとゆぅとるのに。早とちりなとこは結婚してから何ひとつ変わっとらんの」
そうして老婆は長老の腰をぺしりと叩いた。
「あだだ! お前、夫にはもっと優しゅうせんか!お前のような嫁の貰い手、心の広いわし以外おらんかったろうな」
そこで櫂兎は合点いく。目の前の老婆とこの長老、夫婦。
「お婆さん元気じゃないですか!!早とちりなのも問題すぎですよ!」
「ふぉっふぉ、見たのは一昨年寿命でぽっくり逝った隣の婆さんの顔じゃったわ」
がくっ、と櫂兎が肩を落としたところで、腰を痛そうに抑えつつも殊勝な笑い声をあげて、それから――櫂兎の顔を見て慌てはためいた
「お前は誰じゃ――っ!!」
「今になって訊くのかよ――!!」
そしてそれから紆余曲折、どういうわけだか腰をいためた長老の代わりに冬に向けての大工仕事をすることになり、それからそれから他の村人宅の耐雪仕事も男衆と一緒に手伝うことになり。子供らの相手もしていたら、親御さんに感謝されーの、男衆と酒飲み交わしては仲良くなり。
そして今に至る。ここまでで、約二日。色濃い二日すぎた。
「このベコに乗ってきたんかぁ」
「いえ、それ牛じゃなくて馬です」
木材運んでいたポテトは、牛呼ばわりされ拗ねたのか、わざとらしく木を地面引き摺るようにして歩く。
「ポテトお前頭いいのな。でも引き摺ってもし木材使えなくなったらまた新しいの運ばなきゃいけないからお前の仕事増えるだけだよ」
ぽんぽん、とポテトの背を撫でて櫂兎は金槌をまた握り込み、釘打ちに戻った
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