想いは遥かなる茶都へ 44
時は少し遡る。金華を後にし、凛邸へ向かう櫂兎は、不意に振り返る。
視線の先には、肩を降りた霄太師の姿があった。彼は何度か羽ばたいてから、人型に戻った。


「……飽きたのか?」


その姿を見た櫂兎はポツリと言った。


「ああ」

「行くの?」


何処へ、とは言わない。言わずもがな、彼の行き先は分かる。


「ああ」

「はい、指輪」


櫂兎が懐から取り出した小箱を、霄太師は無言で受け取った。


「いってらっしゃい」

「ああ」


霄太師はそうしてくるりと踵を返し、来た道を歩き出した。








凛邸についたのは、日暮れ手前だった。程たたずして、ぽつりぽつりと降りだした雨はやがて本降りへと変わる。客室にて窓をうつ雨を眺めていた櫂兎は、廊下の騒がしさに頭だけ向ける。


「凛様、鳴呼、そんなに濡れて帰ってこられて。お帰りになられること聞いていましたら軒をやりましたのに、これではお風邪を召されてしまいますわ」

「心配するほどじゃない、さほど濡れなかったよ。急いで帰ってきて正解だった」


どうやら邸の主人、久々の帰宅だったらしい。櫂兎も彼女を迎えようと回廊に出たところで頭から布被される羽目になった。


「こら、御悉、お客様にそんな真似するものじゃないよ」

「……凛様、もう少し今のお姿に危機感持たれた方がよろしいですわ」


それをきいて彼女が濡れた服きたままの状態であること察した櫂兎はバッと後ろを向いて布を深くかぶった。


「み、見ないから早く着替えて…」

「私は別に気にしないのだけれど…」

「凛様ッ」


御悉は顔を真っ赤にして凛を咎めた。凛はやれやれといった風に口元を緩める。


「大切なお客様にみっともない姿見せるわけにはいかないものね。櫂兎君、あとでまた室に伺うよ」


そうして凛らしい気配が去って行くのを確認して櫂兎は布から顔を出す。


「……歳下に君付けされるの、何か新鮮」

「えっ?」


回廊に残っていた御悉が不思議そうな顔で櫂兎を見た。櫂兎は何でもないと手を振り、室に戻った。

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空中三回転半宙返り土下座
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