想いは遥かなる茶都へ 33
連れて行かれた先で、秀麗は交渉の末条件付きでの全商連の協力を得る。ホッとしたのも束の間、何気ない言葉への彰の言葉で一気に頭いっぱいになった。


「琳家は数日前、“殺刃賊”に一家を惨殺されて、生存者は……おりません」

「それは……」


(それはどういうこと?
それは……どういうこと……?)


どす黒い予感に胸覆われ、息苦しさいっぱいで金華の街に飛び出した秀麗の背を、彰は目を細め見てから、側で俯く遊佐に声かけた。


「……彼女の言った琳家のご子息は、琳家の者ではありません。梦須からあらかじめそういった話をきいていました」

「そうでしたか。……相変わらず流石と言わざるを得ませんね」


それから遊佐は彰を見た。


「では一体、琳家のご子息を名乗るのは……」


彰は首を振る。


「彼曰く、知ったところで手札にならず寿命縮める類ですから、口にしない方がいい、だそうですよ」


去り際に貘馬木はそう付け足していったのだった。彰としては、情報持っていて何事も損することないと思うのだが、彼のいうことなので素直に従っておくことにした。彼の言葉である、それだけで勝率計算は容易い。


(……王の采配も気になりますがね)


今日中に見つけると彼女は言っていたが、一体全体、あれだけでどう検討をつけられるというのだろう。








その劉輝の言う『一目でわかって、しかも誰にも奪えない絶対確実なところ』をともかく探して駆ける秀麗は、唐突に現れた人混みのなかで妙にぽっかりあいた不自然な空間に遭遇する。そして空間の中心に立つ人物こそが探していたものであり、数ヶ月ぶりに会うその人物は相変わらず強烈すぎる雰囲気醸し出していた。


「藍、龍、蓮――――っ!!」


笛を吹いていた彼は顔を上げ、花がほころぶような笑みをこぼした。


「やあ、我が心の友・其の一ではないか」


一瞬笑顔に毒気抜かれつつも、強気で秀麗は龍蓮の胸倉掴み叫んだ。


「誰があんたの心の友よっ、春でもないのに頭に花咲かせてんじゃないわよ!!」


「む、それはよいな。今度は美しい花を櫂兎に見繕って貰って髪に挿してみよう。きっと風流であるぞ」


それから龍蓮は、生け花のごとく櫂兎に飾って貰うのもいいかもしれないと思った。そんなほわりとした気分でいた龍蓮を、余裕ない秀麗はがたがたと揺らした。


「ばかっっ。いいからあんた、とっとと出すもん出しなさい」


「……私は心の友に会えて胸踊っているというのに、何故君は怒る」


眉をひそめる龍蓮に秀麗は怒鳴った。


「あんたみたいに暇じゃないっつーのよ!」

「君の怒りは愛情表現の一種であるとうちの愚兄も言っていたな。……ふ、私としたことが無粋なことを訊いたものだ」


何故か彼曰くの『秀麗の愛情表現』に喜びの様子な龍蓮に、最早秀麗は会話を諦めた。

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空中三回転半宙返り土下座
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