家の者への伝言書状受け取り、地図頼りに櫂兎は凛の邸へ向かう。
「……そういや凛さんちの庭、感性いいか何かだったな、うちの邸の庭の参考にしよう」
何せ基本雑草抜くだけ、花らしい花の木は季節折々少しはあるとはいえ庭広く寂しい、空いた場所には芋畑である。
それから懐から「さいうんこくげんさく」を取り出しページを捲る。
「……何を読んどるんじゃ?というかこの文字は…」
「ちょっと覚え書きをね。この文字は俺の故郷…まぁ、瑤旋から言えば異世界の文字だよ」
この世界にも日本あるのか知らないけれど、あったとしてまだかな文字は生まれていないだろうし
「文字違うのに櫂兎は読み書きできるよのぉ。こちら来てからおぼえたのか?」
「いや、あっちのいわゆる外国語で同じような言語があって、まぁ多少違うけど何とかなる範囲だったんだよ」
「ふむ」
霄太師は肩から覗き込んではページをつついた。
「で、これには何が書かれとるんじゃ?」
「…………ええと」
「ん? 言えんような何かなのか?」
首傾げてはくりくりとした目でみつめてくる烏の姿は、やけに可愛げあってなんとも対応に困る。普段なら飛び蹴りアッパーの一つや二つかますのに。
「そういうわけじゃないけど。ただ単に忘れないようにと思って書いてるだけだよ」
「何をじゃ?」
「……昔読んだ本の内容だよ」
「ほう? 真剣に読んどるからわしはてっきり主の妹との思い出日記かと…」
「はっ、そんなの書かずとも、いつ何時の佳那の言葉一字一句違えず、表情の可愛さ脳内再生余裕、忘れなんてしない」
……あ、こいつ烏のくせに溜息つきやがった。物凄く違和感。そしてうぜぇ。
「櫂兎の妹好きも相変わらず健在のようじゃの」
「俺が妹好きでなくなる日は、昼夜逆転男女逆転しても、死んでもあり得ない」
誇らしげに言ってのけた櫂兎を、黒い瞳が見つめる。
「まだ、戻る気でおったのか」
「……当たり前、妹と会わなかった年数が俺のここ来たときの年齢越えたんだぞ、禁断症状出る前に帰らないと」
「それほどずっと、ここにおるのだぞ。はっきり言うが、それだけ時たって戻れんというのは――」
「戻れるよ、帰るよ。俺の時はここじゃ何ひとつ進んじゃいないんだから」
「……少なくとも、わしや他の仙では、戻すことは不可能だからな」
むすっとした風に、霄太師はそれだけいって口つぐんだ。
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