「よくもまあ、気も狂わずこの暗い中に居られるな」
「燭台あれば明るいし、食糧も結構持ち込んだから全然平気だけど」
笑顔でいってのけた友に、霄太師は苦笑いした。
地下であるが故にか、ここには妖だとかそういうものは一切いない。燭台の灯りあるとはいえ、暗いものは暗い。何もいない、純粋な闇がここにはある。そんな空間に数日間ずっと居続けるその精神が信じられなかった。ついてきたこっちの気が狂いそうだ。
(幸い、この姿なら闇に溶け込む、気も紛らう)
「じゃーん!今日は豪華にお芋尽くし!」
「今日も、の間違いだろうが」
「はは、何かその口調懐かしい」
「……」
気付かないうちに若い頃の口調となっていたらしい。わらわらと触ってくる櫂兎を他所に、霄太師は干し芋を突っついた。
「なんかこうしてると……」
櫂兎は目を細めぽつりと零す。
「使い魔に餌やる魔法少女な気分」
「な、なんだそれは…」
櫂兎のボケについていけず、霄太師は狼狽えた。
「ほら、瑤旋、語尾に『ミポ』とか『メポ』とか『〜っち』とか付ければ可愛い使い魔の完成だぞ」
「誰がするか!」
軽い舌打ちが聴こえたのは気のせいだと思うことにした。
「くっ、本当に休んでいるのか、あの糞狸……」
八つ当たりのごとく荒っぽく筆扱う劉輝に楸瑛は苦笑する。
「主上、こちらの書類は此方においておきますよ」
「ああ、ありがとう」
扉がギィと開く音がして、楸瑛が目を向ければ絳攸が一人、げっそりとした顔で入ってきた。どうやら道に迷っていたらしい。何故か頭に木の葉までついている
「棚夏殿と一緒に来なかったのかい? そういや最近姿を見てないね」
「櫂兎は霄太師と共に休暇中なのだ」
「ああ、ついに想い報われたんですね」
「楸瑛、別の意味に聞こえるからやめろ」
ぺしりと楸瑛の額を叩いて、絳攸はどかっと近くの椅子に座り込んだ。
不意に劉輝の筆がすらすらと紡いでいく文字をみて、絳攸は目を見開いた。
「これは何だ!?」
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