「そっちもっと寄れってば」
「この『とろっこ』とやらが狭い!」
「当たり前だろ!元々一人乗りなんだから」
ぎうぎうとお互い押し合いながら、荷物踏まぬよう気をつけて二人乗る。一人寝るには広いのに、二人座ると狭いんだから不思議だ。がたこんと音させ、トロッコはやがて勢いのってお互いの声は風に聴こえなくなる。必然、耳元で叫ぶのだが……
「櫂兎」
「ひぎゃっ、ちょ、耳元息あたるの超くすぐったい」
「ほう?」
目をキラリと光らせ、霄太師は櫂兎の耳にふうと息吹きかけた。ぞわぁと震えるのが分かり、面白くてにやにや見る。
「うわっ、ひあああぁぁああむぎゃあああ」
「お? どうした櫂兎?」
「ばっ…、気持ち悪いやめえええ、ひぃっ、ちょ、くすぐった、うひひゃ」
くすぐったさに身をよじらせた櫂兎は、そのまま霄太師にもたれかかる
「お前、後ろ狭いんだぞ」
「知らねっ! ていうか息吹きかけた瑤旋が悪い〜!」
不意に体重かけていた後ろの温もりがなくなった。
「……え?」
驚き後ろ振り向けば、烏。
(……うわぁ、びっくりした。でも驚いたのバレるのなんか癪だし平然装おう)
「最初からそうしとけよなー」
ぺしと烏の頭を軽く叩く。烏はつぶらな瞳で此方をみつめては、首を小さく傾げた
「かっ、かわっ……かわ、可愛い……」
腕を出せばひょいと乗ってくる。可愛いと顔を近づければ、衝撃。
…………額に嘴アタック食らった。地味にすごく痛い。こいつ可愛くない、どこまでもこの烏は瑤旋だった。
「この暗いのが五日間続くのか?」
「まあね」
結局喋るのかい!と内心突っ込みつつ烏と化した癒し系狸爺と戯れる。…あ、どうしよう、烏って不吉だとか怖いとかイメージあったのに、やっぱり結構可愛いぞこいつ。
「干し芋食わねえ?」
「いらん」
「…………」
やっぱり烏は可愛くない。干し芋を目の前でチラつかせたあと、美味しそうに食べるの見せつけてやったら、下らないものを見る目で、鼻で笑われた。俺の中の烏の株は大下落の一方だった。
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bkm