想いは遥かなる茶都へ 01
「子離れしろとは言ったけど、無理して取り繕いすぎに見えるぞ」

「煩いよ櫂兎、そんなこと言いにきたなら帰ってくれる?」


櫂兎はその言葉もお構いなく、すとんと邵可の隣に座った。しばらく沈黙が続いてから、邵可がぽつりと零す。


「……僕って、昔はこんなに不器用じゃなかったはずなのに」


「邵可は昔から不器用だよ」


櫂兎は優しい瞳で邵可をみた。邵可はかぶりをふる


「今よりは器用だったさ。少なくとも自分の感情で、自分の理性を焼き尽くしそうになるなんてこと、昔はなかった」

「……俺、薔薇姫奪還の邵可は感情に突っ走ってたように思うんだけど」

「あれは例外」


自覚はあったらしい。俺の知ってる『邵可』はあの時からだから、正直感情がとか理性がとかどうこう言ってる邵可の言い分は分からない。


「俺、理性なのか感情なのかなんて考えずに、やりたいとおもったら動くからなー」

「……櫂兎は、よく分かってるよ。こえちゃいけない一線も、譲れないもの一つも」

「そんなことねぇ。……いや、そうかもしれないけど。それは器用だとかじゃなく、俺は限りなく近く関わったとしても、どこまでも傍観者でしかないんだなって、どこかで思ってるんだと、思う」

「……ふうん?」

「動く感情に、理性が働くんじゃない。動く感情が、多分ちいさい」


普段表情コロコロ変えるこいつがそんなわけあるか、と邵可は呆れた。少なくとも昔の自分の方が彼よりよっぽど淡白だろう。絶対そうだ


「俺、妹のこと大好きなんだよね」

「……もう自慢話はしなくていいからね? 君、それを話し出すと長くなるんだよ」

「はっ、佳那の素敵さは幾度話しても話し足りないかんな!って、話ずれた。俺の七割って、多分妹相手じゃないと正常に動かないんだよな。残り三割を誤魔化し誤魔化して、俺は笑ってる気がするんだ。だから、正直、自分の感情でいっぱいになるとかいう邵可は、羨ましい、ような」

「…………君、馬鹿?」

「え」


馬鹿とはなんだと不服そうに眉寄せた櫂兎の額をぺちぺち邵可は叩く。


「じゃあ何? 僕が今まで見てきた君の笑った顔も怒った顔も泣いた顔も、君の全部――心からのものじゃないとか言うワケ?馬鹿みたいに小さなことで爆笑したり、子供みたいに泣き喚いた君は何だったって言うの?」


額をぺちぺちと叩かれ続けていた櫂兎は、それをきいて鳩が豆鉄砲食らったかのごとく、口をあんぐり開けては目をぱちぱち瞬かせた。


「……どうしたの、驚きの新事実、みたいな顔して」

「何か、思った以上に俺ってみんなのこと好きだったのなあって」

「何それ気持ち悪い」


邵可の言葉にがっくり項垂れため息つく。それから、邵可と目が合って――何故か笑いがこみ上げた。


「何ニヤニヤしてるの…あー、君相手に相談だとかするのが無茶だったよ。馬鹿なことしちゃったなぁ。時間無駄になったし」

「俺さ、多分妹が1番で、その位置は譲れないけど、妹が他のやつに割合押しやられることはないんだろうけど。でも、皆への俺は限りなく十割で向き合ってたのかも。あ、もちろん妹にも十割」

「計算合わないよ」

「俺は大きい人間だから、二十割でもお釣りがくるんだよ」


軽い調子で気楽そうに笑ってみせた櫂兎に邵可は苦笑いした。――本当に、相談するんじゃなかった。全く解決にならない
なのに、こんなに心穏やかな自分は、やっぱり気楽すぎる彼に毒されてるのだ。


「ちなみに愛情度は妹7対皆3だな!」

「やっぱりそうなるんだ?!っていうか理不尽な格差!!」

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空中三回転半宙返り土下座
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