花は紫宮に咲く 08
劉輝を秀麗達の護衛官におくりだした後、カラの執務机を見た絳攸がふっと言葉漏らす


「……俺も甘いな」


「そうでもないだろう。いい措置だったと思うよ、色々な意味でね。今回ばかりは静蘭をつかうわけにはいかないし。主上の腕なら補ってあまりある」


笑って楸瑛は言った。それに、と楸瑛は絳攸の書簡整理を手伝いながら付け足す。


「君だって、主上に同情しただけで了承したわけじゃあるまい」


「まあな。取り敢えず朝議と春の除目の選定、あと最低限の仕事だけしてくれればいい」


「――ところで今回の教官、やっぱり魯官吏みたいだねぇ」


楸瑛は懐かしげに目を細めた。櫂兎は長らくきいていなかった名に、筆を止め顔を上げた。


魯官吏、か。進士時代は途中合流だったってのに容赦なく書類仕事積まれ、終われば渡され、また終われば渡され。いつ終わるんだと半ばヤケに書類こなした記憶がある。意趣返しで「差し入れは梅饅頭がいいです」と言ったら本当に梅饅頭差し入れて貰えて嬉しかったような悔しかったような、だ。


そういや何故か俺だけ靴磨きだとか皿洗いだとかの仕事はこなかったんだよな…扱く価値なしと見られてたわけか!魯官吏、貴方の目は本物です。今の俺の地位が証明してるよ!……ふっ(遠い目


まあ、そういう仕事は貰ってなかったおかげで黎深を馬小屋に笑いにいっては高官の弱み握る手伝いしたり、鳳珠と皿洗い競争に熱くなったり色々できたわけだけど。


「私たちのときを思い出すね、絳攸。お互い散々目を付けられちゃってさ」


「……親の仇かってくらい目の敵にかれてしごかれたな」


目を付けられなかった俺はそんなお前らが羨ましい。


「秀麗殿たちも、これからが大変だね。それにこちらの仕事も増えそうだし」


楸瑛は綻びはじめた庭の花々を見て微苦笑した。


「春の除目、か。また色々ありそうだねぇ」


「ないほうがおかしいだろう。対策は?」


「誰に訊いてる? 絳攸」


「……このところ妓楼に通い詰めという噂があるが?」


「絳攸、噂じゃなくて事実だよ。裏付けとったし」


ギロリと二人して楸瑛をにらめば楸瑛は苦笑いして宥める動作をした。


「ちゃんと仕事はしてますって。妬かないでくださいよ、棚夏殿も絳攸も。私も健康な青年男子なんです」


「――妓楼より先に医者に通い詰めて、その腐れ頭をすげ替えてもらえ!」


「『楸瑛ー、新しい顔よー』ってやつだな」


楸瑛の頭が高速回転して装着されるシーンを思い浮かべた櫂兎は気分が悪くなった。


「――例の指輪が見つかったと、報告がきたよ」


世間話のついでのように、さらりと言ってのけた楸瑛の言葉に、絳攸の目が見開かれた。


櫂兎は瞑目した。

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空中三回転半宙返り土下座
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