「いいですか、陛下。振る舞いにはお気をつけくださいよ? 口調も態度も武官らしく、です!」
「分かったでござる!」
「そうそう、その調子です」
にこにこと褒めては「髭はやして童顔誤魔化すのですよ」だの「目と目で会話出来ねばなりません」だの教え込んでいく。劉輝はただふんふんと言われた通りにせねばという使命感たっぷりに首を縦に振るのだった。傍目でみていた楸瑛は苦笑いする
「棚夏殿、武官にやけに偏見…っていうかもう恨みに近いものあるんじゃないですか?」
「やだなぁ…心当たりないとは言わせねえよ楸瑛?」
楸瑛にしか聞こえぬよう耳元で囁く声は、小さなものなのに凄みがきいている。
「前の秋はよくも山に植えた芋掘り返してくれたよなぁ…」
「それは大将二人に言ってください。左右羽雨林軍で対決、山菜採り言い出したのあの二人なんですから。まさか棚夏殿の私有地あるなんて思いもしませんよ……」
「はっ、知らねえよ。芋も山菜のうちだろうとかってあとニ、三週間で収穫のお芋さん掘り起こすなど断じて許さん、許さんぞ武官!あと二、三週間で芋の甘みの違いがどれだけあるか!大ぶりすぎず小ぶりすぎない丁度いい時期を逃したお芋さん食べるときの切なさといったら……ッ」
「すみません、私そんなに芋について詳しくないので良く分かりません」
スパッと言い切られ櫂兎は肩をがっくり落とした。まあ、求める方が無茶ではあったが。それに私有地と知らず芋掘り返した詫びとして貰った山菜美味しく頂いたのでよしとするか。
「そうそう、もし遅刻しそうになったら近道に――」
そうしてまた劉輝に『武官指導』し始める櫂兎を、楸瑛は過保護だなあと見た。大体、あの二人が遅刻しそうになるなんて滅多な事じゃあるまいし
「……ちょっと待って下さい、棚夏殿、何でこんな後宮への抜け道知ってるんです。っていうか私がこれを知っていれば…ッ、わ、こんな道もあるんですか?!」
「楸瑛は悪用しそうなので陛下、あっちで見取り図みましょうかー」
「そうだな!じゃない、そうでござるな!」
楸瑛はそうして完全に除け者にされた。後に部屋に入ってきた絳攸は、部屋の隅でいじける楸瑛をみて鼻で笑った後劉輝達と合流した。
「…………ぐすん。あれ、この感覚どこかで知ってるような」
それが、昔よく体験していた、華蓮に手酷く振られたり突っぱねられた後の感覚だと気付くまであと三秒――
「楸瑛が急に部屋の端で悶えはじめたぞ」
「きっと、未知の病原菌で悶絶死する予兆です。見たらうつるやもしれませんから気にしないが勝ちですよ」
「じゃあ話に戻るぞ。まず、春の除目だが――」
きっとその病気は、無性に穴を掘り埋まりたくなるやつだと劉輝は思った。
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