黎深様の役に立ちたくて、官吏になり、吏部に入った。
心機一転、だらしなくてはいけないと思い髪を結ってみる
自分の髪は、少し癖があると思う。纏めにくいというか、括りづらいというか。
普通の髪紐を使って結うと、上手く結べず、紐の長さが微妙に足りない。力をいれてひいて結べば足りるので、頭が引っ張られる感じを我慢して結ぶが。
「……あ」
毎日きつく結び続け過ぎていたのか、髪紐が切れてしまったらしい。
今は勤務中、髪など気にして紐を買いに行く余裕もない。
どうしようかとオロオロしているところで、声がきこえる
「お、絳攸髪結ばないとまた雰囲気違ってかっこいー」
「棚夏殿に楊修殿…」
棚夏殿は、あの楊修殿が珍しく殿を付け呼ぶ人物。どうやら棚夏殿は吏部の古株らしく、楊修殿の元指導係だったとか
「んー、ちょっと待っててな」
棚夏殿がそう言ってゴソゴソ懐を弄り出てきた髪紐。
「これやるよ、俺のお古だけど」
「棚夏殿の?」
「え、髪括ってらしたんですか?」
楊修殿も知らなかったらしく、2人して驚く
「んー、国試終わったあとばっさり切って以来のばしてないんだけどな。ここまであったんだぜ」
そうして腰の少し上あたりを指す棚夏殿。なんというか、意外だ
「もう使わないだろうし、やるよ。結ばなきゃ気になるもんな」
「有難うございます」
棚夏殿に頂いた髪紐は長めで、自分には丁度良かった
「おい絳攸」
「……なんでしょう、黎深様」
廊下ですれ違ったとき、不意に引きとめられる
「その髪紐はどうした、朝と違うが」
「使っていた髪紐がきれてしまって…これは棚夏殿に頂きました」
「…………」
何故か悩み始めた黎深様
「あの、どうかされましたか?」
「いや、どこかで見たことがあった気がしてな……まあいい」
そうして黎深様は去って行った。
そこでハッとする
「………あっ、あの人また仕事放って府庫行った…ッ」
気づいてももう遅い。黎深様はもう見えないところまで離れてしまっている
俺は深い深いため息をついた。
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空中三回転半宙返り土下座
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bkm