待ち望まない争いと 42
朝、まず吏部尚書室にクッキーを差し入れてから、おそるおそる吏部の書類仕事をする室へ向かう。


見事に屍の山ができていた。


「ぐっ、もう、私は…」


「かえりたい……」


「zzZ…」


なにやら怨念というか呻きというか、とにかくよどんだ空気の吏部に若干引き気味になる。
一歩踏み出せば何かを踏んだ感覚。床に倒れた人を気づかず踏んでしまったらしい


「すみませ…って絳攸!?」


目の下はくま、顔色はひどく悪く死んでしまう寸前なんじゃないかという状態、半目で「ふふ…おはなばたけ…れーしんさま」だとかもう末期症状としか思えない。絳攸がこの調子だと楊修は―――


「棚夏殿ぉ…もう、こんな苦しむくらいならいっそ死にたい…殺して、殺してください……」


「ぎゃああああああ楊修おちつけはやまるな仕事多くとも休みは自主的にとれって言っただろ!!」


ゾンビのごとく楊修は床を這い俺の足首にすがる


「仕事はやってもやっても…おわらな…」


そこで糸が切れたように楊修は意識を飛ばす。倒れる体を支え、辺りを見渡す。吏部全体の官吏の人数がかなり減っている。そして所狭しと積み上げられた書類の山、山、山

楊修の机の上を見れば、確かに処理してしまわなければ吏部が機能しなくなる重要なものばかり。しかしこの量を一人でやれというのは…


「無茶すぎるだろ…」


そうして俺は垂れた前髪を掻きあげ視界を広くし、腕まくる
どれだけやれるかはわからないが、ここはひとつ本気でやってみようか





目が覚めた楊修は、また気づかぬうちに眠ってしまったとこめかみを抑えた。体を酷使させすぎたのだろう、意識を失う前に一月ほど休みを取るといったきり戻ってこない彼を見たような気がする時点で相当疲れがたまっている。しかし、彼がいない今、自分がこれを何とかせねばならないのだ。甘煎餅の差し入れが一つもないせいで、尚書のやる気が大幅に下がっていて、仕事も最低限しかしてくれない。できるくせにやってくれないのだ…


重い上半身を持ち上げ、自分の机を見れば誰かが突っ伏している。机を間違えられたのだろうか
そこで、その人物と自分の机の上の変わりように驚いた



「棚夏殿…」


机に突っ伏して寝ている彼は、「さすがおれのいもうと…」と寝言を呟いている。どうやら完全に眠っているらしい。いや、それよりも――


「私の仕事、なくなってるじゃないですか」


机の上の書類は跡形もない。どうやらほかの部へ届ける分まで彼が届けてくれたらしい
吏部全体を見ても明らかに書類量が減っている。尚書が今仕事に本気になる理由なんて見つからない。つまりすべてこれは彼の手によるものということで…


影の長さから今がお昼時だというのはわかるのだが、半日でこの仕事量…全く持って恐れ入る


そこで机に突っ伏した彼が起きた


「はっ…一息ついて昼ご飯食べたら眠くなって……って誰に言い訳してんだ俺は」


「おかえりなさい、棚夏殿」


そう呼びかければびくりと震える肩


「楊修…ごめんな、一月ちょっとも抜けてて」


「いえ、今から棚夏殿が頑張ってくれればいい話です」


そこで彼は思いっきり顔をしかめ、前髪をいじりだす。そういえば、普段たらしている前髪を上げとめていた

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空中三回転半宙返り土下座
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