「あの龍蓮の笛すら平気だし」
「っていうか龍蓮ってば初対面のときからして華蓮殿にベタベタしすぎだろう」
「華蓮殿と会話が成り立ってたことも、驚きだったよね」
三人であれやこれやと華蓮殿考察を繰り広げるが、彼女の謎は話せば話すほど深まるばかり、そして話せば話すほどその能力の高さや特異さが目に留まる
そして三人は、結論のでない考察を一言でまとめた
「「「まぁ、華蓮殿だし」」」
それでいいのか、三つ子
「華蓮様は貴陽で後宮仕えされているんですか」
「ええ、本来後宮入りしてから外部へ出入りなんてことはないのですけれど、この度は少し無理を言って抜けさせて頂いてきたんですの。
そうそう、迅殿、貴陽まで長旅、そう気を詰めるのもいけません。言葉遣い慣れないようでしたら話しやすい口調で結構ですのよ」
さっきから迅の敬語が俺の中の迅のイメージとかけ離れているせいか違和感ありすぎて、気になって仕方ないのだ
と、迅は顔を赤くさせた
「言葉遣い…へ、変でしたか?」
「そんなことありませんわ。ただ、なにとなく似合わないような気がしまして」
「そう…か。じゃあお言葉に甘えて。俺、普段そんな馬鹿丁寧な言葉使うことなんてねーからさ…」
はは、と苦笑いして照れる迅
「お気を楽にして下さいな、護衛の申し出もですけれど、私、腕っ節には少し自信がありますのよ」
そうして腕まくりして意気込んでみせれば、迅は噴き出す
「清楚で大人しい姫さんかと思えばジャジャ馬だったのか、なんか蛍みてぇ」
「あら、迅君、やけにその『蛍』さんのお名前出すとき幸せそうでしたけど…その子のこと思慕してるのかしら」
うふふと笑えば真っ赤になって馬の手綱に目を落とす迅
何という純情…っ! 春色四男の幼馴染でありながらどうしてこれほど純情なんだ…!このままの君でいてくれよ
そんな俺の心の叫びをきいたのか迅はどもりながら「彼女にはその…そういうこと言うつもりはないっていうか、俺はあいつの兄みたいなもんだし…えっと……」と、何とも微笑ましい言葉を漏らす
「幼馴染の藍家四男とは大違いですのね」
「………もしかしなくともあいつのことだから後宮に忍び込んだりしてて…」
「ええ、苦労させられてますわ。あれ、何なんですの。早く枯れればいいのに、年中無休の万年春真っ盛りで困ります」
「ハハハ……」
苦笑いする迅に提案してみる
「四男と交替して官吏になりませんこと?」
それのほうが後宮の平和や俺の精神衛生のためになる
「……なるとしたら、俺、陵王様の下にいたいんです。あ、陵王様というのは…」
「現藍州州牧の、いつもお酒のんでて煙草吸う姿はいなせな男臭い彼ですわね。ふふ、直接お会いしたことは有りませんが、仕事はできるお方とお聞きしました」
「だよな! なのに楸瑛のやつ、陵王様を唯のオッサンだとか思ってやがるし…」
そこで、急に表情を険しくして迅が前方をみる。俺も耳をすませれば馬のいななきがかすかにきこえる、いや、これは
「どこかの馬車が襲撃されているようですわね」
「道を変えましょう」
「何言ってるんですの!」
そうして俺はひらりと馬車から降りる
「助けに向かいますわよ!」
そうして駆け出す俺に驚いたもののどこか楽しげに迅は笑い、近くの木に馬を留め置き走り出した
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