待ち望まない争いと 10
例をみない豪雪で、今年の冬は北の二州の被害が甚大だった。中央が中央なので、それらに対応がされず、また雪で道が閉ざされるのもはやかったので、二州は実質的に孤立状態。情報さえも遮断された


除雪機や防雪技術なんてないから、雪の多い地域でもちらほら村が孤立していた。小さな村では、蓄えも少ないだろう
思われる結末に俺は拳を壁に叩きつける。


「春はまだかよ……」


「僕を呼びましたか?おねえさん」


「てめぇはお呼びじゃねえ…って」


今先ほどまでの俺の言動と、華蓮の姿の俺。そして目の前の影


「春色四男……」


き、きかれてた……だと……
冬は外気で寒く人通り少ない廊下だし誰もいないと思っていたのに

春色四男といえば若干顔を引きつらせている


「………私としたことが、声を荒げてしまいましたわ。はしたないところお見せして申し訳ありませんでした」


華蓮の振る舞い、声に戻す。素の声がドスをきかせただけとおもってくれれば尚良い!



「おねえさんの新たな一面を発見できて嬉しかったですよ」


ああ、どうやら誤魔化されてくれたらしい。いつもの春色撒き散らす笑顔に彼がなる。


「それは良かったですわね。ほら、ならもうよろしいでしょう。お帰りになって下さいな」


しかし動こうとせず、春色四男は俺の右手をとった


「………何をするんですの」


「赤くなってますよ、ここ。さっき叩きつけていたでしょう、綺麗な手なんですから大切になさってください」


「…………」


「……はぁ」


無言でいたらため息をつかれた。お前にため息をつかれるなんて、俺も終わりやもしれん


彼は不意に廊下の外……庭におり、木の上の雪を掬う。一人雪合戦でもする気か?

春色四男が駆け戻ってくる。そしてその雪は俺の赤くなった右手に押し当てられた。
痛く熱くて感覚ない右手に、雪の冷たさは心地よい


「はれてはいけませんから」


にこにこと笑顔を浮かべている春色四男
俺は紳士すぎる彼に唖然とした


雪が溶けて雫になり滴る


「もう、手を離してくれてもよろしいんではなくって? 雪はもうないでしょう」


「ええ。そう、なんですが………離したく、ありません」


一気に鳥肌がたった。心の中で呪文の様に「離してくれ」とループする


「それでは帰れませんわ」


「帰しません。そんな顔のあなた、初めてみました。思い悩んでおられる女性は放っておけませんよ」


俺は紳士だ女性じゃないだから今すぐその手を離せ春色四男頼むから離してくれ
そんな俺の願いも虚しく手を握ったままの四男


濡れた手が、外気に冷やされ冷えていく。このままでは手がしもやけになってしまう。冷たいのは春色四男も同じのはずなのに

10 / 45
空中三回転半宙返り土下座
Prev | Next
△Menu ▼bkm
[ 戻る ]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -