進士、下っ端官吏 22
「棚夏〜」


「うわっ、……貘馬木殿」


「何だよその明らかに嫌そうな顔は。…って受け答えももうやめたいんだけど」


「嫌なものは嫌でしょう。それだけです。で、何です?」


「ん? あー、いや、そろそろ楊修書類仕事出来るようになった頃じゃねえ?」


確かに、楊修の書類に関しての腕は及第点、そして獏馬木の来るタイミングは作業が一通り終了したところと、ばっちりだ。
櫂兎が頷くと獏馬木はにぃと彼独特の笑みをうかべて言った。


「だから覆面官吏するときの変装いろはを叩き込んでやろーと思って。楊修この調子じゃ、すぐ出世すんだろ」


一握りの優秀な人間しかなれないような、特殊な職種の覆面官吏をこともなげに、あっさりとなれると見通した獏馬木の発言に、楊修が明らかに戸惑った態度を見せる。助け船を求めるように、何か言ってくれと櫂兎の方をみてくるが、櫂兎も獏馬木の意見に同意である。にっこりと意地悪く微笑むと、自分の味方をしてくれないと察したらしく、楊修は唖然とした顔をした。


なにも答えずともわかっている風な貘馬木は、そこで手に持っていた木製の大きな箱を机においた。
そうして貘馬木の持つ大きな箱から取り出される数々の髪染め道具、化粧品、鬘、眼鏡、その他小道具などなど


「人の印象ってのはある特徴で決まる。その特徴をとらえさせず、かつ別の特徴をつければ潜り込んで活動楽勝な」


そうして俺の目元に何か化粧道具で書き込み、良く分からない色々を吹きかけ、最後に水色に近い髪色をした鬘を被せ、鏡をずいと自信満々にだしてくる。
それを覗き込めば


「………だれ」


なんか美青年がいました。


「目元をキリッとさせてみて、肌の色や頬の線が綺麗に見えるような化粧してみたらこんな感じ」



「……貘馬木殿のこと、俺、ただの書類仕事しないダメ上司だと思ってました」


「今は?」


「ダメな中にも凄いとこあったんだなーとちょっと見直しました」


これはすごい。俺がいけめんになってるなんて。



「長期の潜入なら髪染めちまったほうがよかったりする。
んで、重要なのは、印象に残る程度の特徴をつけるとして、その特徴は覚えられては駄目、『思い出そうとしても良く顔が思い浮かべられない、こういう人だったんだけどね』、そう思わせるように」



「ふむふむ」


「化粧品やこういう小道具の類は使い慣れないと上手くならないから、今日は……棚夏と楊修2人で互いに変装させ合うこと。
自分で自分の顔するのは見ながらじゃないから難しい、まず早く慣れてしまえ。そんな感じー」



そうして箱の中身をこちら2人に向けくるりとまわした


「頑張ってねっ」


にこにこと2人をみる貘馬木


「あの…道具の詳しい使い方とか」


「失敗は成功のもとっていうし、まずは使ってみてよー。あ、棚夏は化粧一旦これで落として」


そうして濡らした布を渡され、顔をふく。


楊修はというと貘馬木のその言葉に早速何かを手にした


「……あのー楊修? それ、口紅に見えるんだけど」


「男が口紅ぬれば特徴つくかなと」


「カマカマしいし覚えられるだろが!!!」


似合うと思ったのになあとボソリと楊修が呟いたのを睨めば、仕方ないなというふうに口紅の小箱を置いた。

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空中三回転半宙返り土下座
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