「幽霊退治?」
「ああ、棺桶から夜な夜な屍人が出ては徘徊しているらしい」
黎深は至極面白そうに話した
「これで今噂の悪霊も退治されるだろう」
……いや、俺、それお前のことだと思うんだ。
そんな俺の様子も気にせず、鳳珠に賭け碁であらゆる手を使い勝ち、幽霊退治に引き連れようとする。なんでも、鳳珠の顔をみれば屍人だろうが何だろうがそろいに揃って倒せるだろうという見解だ
悠舜は、バカは1人でやりなさいと言って寝てしまった
そうして出ると噂の場所の近くまで三人で来たのだが……
ひゅおおお、といかにもなにかがいそうな風音に鳳珠は危険を感じたのか「帰る!!!」と踵をかえしてしまう
俺も帰ろうとするのだが、黎深が腕を掴んで離してくれない
「……悠舜も言ってたろ、馬鹿は1人でやれって」
「ふ、ふん。お前なんかいてもいなくても戦力に変わりはないが…松明持ちくらい必要だろう!」
「あ、そう……」
要するに1人は嫌らしい。
音のする方にそろりそろりと近づいていけば、その何かの開く音がキイ…とまた響き、バタンと金属の塊が石床に落ちる音がした。
黎深は柄にもなくその音にびくりと体を震わせ、松明を掲げる
「なんかこの暗がりの祠っていうか、地下?みたいなとこから音がしてるな。入るか」
「櫂兎、ささささ、先に行ってもいいぞ?」
あきらかにきょどっている。噴き出すのを堪えて下り坂の先を照らす。二人分の足音がかつん、かつんと響く。
ふ、と気づいて足を止める。
急に止まった俺に後ろの黎深がぶつかる
「何を急に止まって……」
「耳、すまして」
かつん……かつん…と、あきらかに人が歩く音。ちなみに俺ら2人は今歩いてない。つまりこの足音の主が、
「噂の屍人さん、か」
かつん…かつん……
その足音はだんだん大きくなっていくように思われた
そして闇の奥で火が揺らめいた
ぼうっ、と顔が浮かび上がる
「おや、ボクにお客さんかな? 初めまして」
「初めまして、棚夏 櫂兎です」
俺が気楽な声で言うが、黎深は俺に隠れぷるぷるしている。
「ボクは来俊臣、よろしく。おや……後ろの君は…」
ビクリ、と黎深の肩がはねた
小声で黎深に言う
「幽霊じゃないじゃん、大丈夫だって」
「だがこういう類の奴は…」
「そこの後ろの君、名前は?」
俊臣は黎深にかつかつと近づく
名前を言ったところで呪い殺される訳でもないのに、黎深は無言を貫く。代わりに俺がこたえた
「こいつは紅黎深です」
「へえ!君が!」
そう言って俊臣は黎深をじろじろ余すことなくいろいろな方向からみる。それに怯え動かない黎深、俺の腕を握る力がさらに強くなった。
俊臣は急に声を張り上げた
「素晴らしい!素敵だよ、君! 是非棺桶を贈らせてくれないか?
ああ、それには素敵な拍手喝采の生前葬儀も一緒がいいね!呪いの藁人形の用意は…」
その言葉が終わる前に黎深はぴゃーと風のように走って逃げて行ってしまった。
俺を残して。
……………あいつ、見捨てやがった。
はあ、と残された俺が溜息をつくと、俊臣は黎深の去ってしまった方向をみて淋しそうな顔をした。
「逃げられちゃったよ」
「ま、そんなこともあるよ」
「……君には、花菖蒲をいっぱいに詰め込んだ棺桶が似合いそうだね。ああ、生花だから今すぐ用意するわけにはいかないけど」
「貰ってもいいのか?」
「それはもちろん」
「わあ、有難く頂いちゃうな!」
するときょとんとして目を丸くする俊臣
「そんなに喜んでくれたの、君が初めてだよ」
まあ、そうもなるわな
あははと笑って「贈り物は嬉しいもんだろう?」と言った。
まぁ、できればここで棺に眠る真似なく妹の元に帰るのが俺の願いではあるが
そうして少し俊臣と会話した後宿舎にかえれば、まだ黎深が怯えていた。棺桶が…棺桶が…とぶつぶつ言っている。
見捨てて帰ったことは、今回は見逃してやるか……
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