白虹は琥珀にとらわれる 37
話がしたいとの悠舜からの文を受け取った櫂兎は、仕事の合間を縫って彼の呼び出した王宮の一室へと来ていた。一応は仕事場での正式な訪問ということで、略式ではない礼をとる。悠舜はそれを見てなぜか小さな笑い声を漏らしていた。何故だ。


「似合いませんね」

「ひどい」


個室で二人きりになって早々、悠舜に言われ櫂兎は項垂れた。


「俺だって似合わないし向いてないと思ってるよ! あーっ、もうッ! なんで目をつけられちゃったんだろう」

「それは……何故でしょうね?」


悠舜の言葉がきっかけとなって、皇毅は櫂兎を捕捉したのだったが、そんなことはおくびに出さず、悠舜は用件の話に入った。


「今日呼び出した用向きは、一応吏部尚書の打診となっているのですけれど……」

「俺もう副官やるって言っちゃった。そもそも、吏部は楊修がいりゃ大丈夫でしょ」

「でしょうね。ですから私も頼みません。ただ、折角こうして時間がとれたことですし、櫂兎がよければ、少し雑談でもしませんか?」

「する!」


久し振りに悠舜と出会ったこともあり、溢れる笑顔で即答した櫂兎に、悠舜はにっこり笑った。


「では、櫂兎にはお説教です」

「へっ!?」


わけがわからないと目を白黒させる櫂兎に悠舜は告げた。


「黎深と絳攸殿の件ですよ、櫂兎。
成長を見守るのはいいですが、国を巻き込まれるのは困ります。やるなら他所でやりなさい」


辛辣ながら事実であって、櫂兎はしゅんと肩を落として謝った。


「素直なところは評価しましょう。そしてどうするべきだったか、貴方なら分かっていましたね? それなのにその手段をとらなかった。そのツケを今、貴方以外の人間が払っているということを、貴方はよく知っておくべきでしょう」

「うわぁ…痛み入ります」


すっかり打ちのめされた様子で苦笑いしながら、それでも悠舜に感謝する櫂兎に、悠舜は一つ二つと頷いてそれを切り上げる。


「では、私のお説教は終わりです。
さて、櫂兎は私が叱ったのですから、貴方は自分に責があったのだと気負うのを終わりにしなさい」


悠舜のその言葉に、櫂兎は不意打ちでも食らったように大きく目を見開いて、それからくしゃりと、今にも泣きそうな顔をした。


「悠舜ずるい、これはずるい」


ふるりふるりと、堪えるように櫂兎の瞳が揺れる。ふた呼吸ほど置いた後、櫂兎は震えを呑み込むように喉を嚥下させた。悠舜は穏やかに目を細める。


「ふふ、いつものお返しです」

「俺、お礼も仕返しもされるような真似したおぼえないんだけどなぁ」

「自覚がないから嫌ですよねぇ、これだから櫂兎は…」

「本当に心当たりないんだけど!? えっ何、えっ、えっ?」


はー、やれやれとでもいうように肩をすくめていた悠舜は、狼狽える櫂兎を見ては、くすりと笑って態度を戻した。櫂兎は、からかわれているのか本当に何かあるのかも分からず、しかし尋ねても答える気のなさそうな悠舜に、結局根負けして実のことを知るのは諦めた。


「ところで、貴方の正体というものがわからないものですから、長らく考えていたのですけれど」

「また唐突だな!?」

「それだけ貴方に話したいことがあったのですよ」


ふふ、と笑って、それから悠舜は「考えを聞いてくれますか?」と櫂兎を見つめた。

37 / 43
空中三回転半宙返り土下座
Prev | Next
△Menu ▼bkm
[ 戻る ]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -