「黎深は悠舜さんに八つ当たりしたくなかったみたいですね。あなたに八つ当たりして、嫌われたくないから、代わりに私に八つ当たりしたんだと思います。自分で気づいているかどうかは怪しいですけど」
「余計悪い!」
「いえ、すごい進歩。黎深が誰かの反応を気にかけてためらうなんて」
百合姫は悠舜の平手を握る俺を見て笑った
「あの一発、かなり効いていると思います。でも今の黎深には一発にしてやってください。止めて下さってありがとうございました、二発だと、立ち直れないかも。」
ふふ、と百合姫が笑う
「…初めて『他人』を好きになって、黎深は手探りの状態だと思うから」
「……あなたは黎深のあの人もなげな振る舞いを許すのですか?」
「まさか。悠舜さんが起こらなかったら、私だってぎゃーぎゃー怒ってましたよ。
でもご覧になったでしょう? 私が怒っても、悠舜さんのようにはなりません。……私は黎深のあのバカでアホな性格と本気で向き合ってこなかったから。そこまで付き合うの、面倒くさくて」
はーっと、百合がため息を漏らす
「……ひどい傍付きでしょ? だから黎深とはお互い様なんです。それに今回は怒るより、正直ホッとしました。……黎深は、まだ知らないんです。肉親と違って、『他人』とはほんのちょっとした一言で、修復不可能なくらい粉々に壊れてしまうことがあるってこと……」
ほろり、と一筋、百合姫の瞳から滴が落ちる。
それに、顔を背けながら鳳珠が手拭いを差し出す
「ありがとうございます。お借りいたします」
その声につられるように鳳珠が振り向いてしまうが、百合が鳳珠の顔に関して何かしら反応することはなく
「試験、頑張ってくださいね。どうぞお体に気を付けて」
百合は鳳珠ににこっと微笑み、深々と礼をして帰って行ったのだった
「……鳳珠?」
覗き込んでも反応がない。悠舜がつついて叩いてゆすってみる。
髪も引っ張ってみて、目の前で手を振っても見たが微動だにしない。
「……悠舜」
「櫂兎……」
二人顔を合わせ、どうしてこう厄介ごとが…というため息をついた
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bkm