「黎深は大丈夫ですよ…あ、いや、俺の手には負えませんけど、あれでも友人ですから」
百合姫は頭を下げたまま、表情は見えない
「どうか、本当によろしくお願いします。…あんな性格ですけど、見捨てないでください。
冷たいのも、やりたい放題なのも、人の心に疎いのも、感情表現がおかしいのも、今まで人とかかわらなかっただけなんです。
常識もないから、皆さんが頭にくることも、相当あると思います。頭だけはやたらいいのでわかりにくいかと思いますが、……黎深は本当に、子供のままなんです。
……大切な人に、置いてけぼりにされたときから、一人きりの世界のままで」
「あなたが、いらっしゃるではありませんか」
悠舜のその言葉に百合姫は泣き笑いのような表情を浮かべる
「あは。私がいてもいなくても、黎深にとっては何も変わらないですよ。それじゃ」
そんなことないと否定の言葉を紡ぐまもなく、百合姫は行ってしまった。それと入れ違いに黎深と鳳珠が戻ってくる。
悠舜の持つ風呂敷から除く橙色に、黎深は眉をあげた。
「みかんか? 悠舜」
「遅いですよ、黎深。たった今まで、百合姫がいらして―――――」
その言葉に黎深の顔色が変わるのが明らかに見て取れた
百合姫を追いかけだした黎深と入れ違いで飛翔が来る。おにぎりの包みを悠舜はその飛翔に託した。そして黎深の背を追う
「これ、食っていいのか?」
俺も悠舜について行こうと助走したところで、飛翔の言葉に足を止める
「昆布、しゃけ、梅干しは2つずつ残しておいて」
「おう」
その返事を聞いてから、だいぶ遠ざかり小さくなってしまった悠舜の背を追いかけた
やっと追いついたと思えば、気を失っている劉輝が転がっており、パン、という平手の音。
悠舜が、黎深の頬を叩いていた。
「――謝りなさい、黎深」
「いやだ」
「黎深」
「百合には何を言ってもいいんだ。口出しするな」
悠舜が無言で再度手を上げる
それを百合姫が庇い立つ
二度目の平手は俺の手によって止められた。
「友人に女性の頬打たせるわけにはいかないだろ」
どうして止めるんだという目に言い返し、悠舜は百合が黎深の前に立っていたことに気づく
何故、と問うような悠舜の目に百合は苦笑して返した
「これでも一応私の主人なので、二度目まで傍観してるわけにはいかなくて」
ちょうどそのとき、なかなか戻ってこない黎深たちを追ってやってきた鳳珠も、その光景を目の当たりにした。
黎深は苛立たしげに顔をそむけると、鳳珠とすれ違うように猛然と去って行った
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