「平和ですね」
「だなー」
今日は黎深が鳳珠と一緒に洗濯当番。悠舜のお説教で当番をばっくれることはないから、余計なことをしでかす心配もなくつかの間の安心だ。
鳳珠の顔で道行く人々、動物が倒れるというのはあるかもしれないが…
黎深の室には誰もいない。本人は机に向かうということをしないからだ。部屋の隅には黎深があらゆる人たちを脅し、大金を巻き上げ、血判を押させた『なんでもします念書』が積みあがっている
すると外から女性のものと思われる「ぼろすぎ…」というつぶやきが聞こえる。間違いなくその対象は13号棟だろう
「誰への用事だろう?」
「私が出ましょうか」
ぎい、と悠舜は扉を開けた。そこからのぞく女性の顔
「お客様ですね。どなたかへの差し入れでしょうか?」
「あ、はい。百合と申します。このたびは紅黎深がご厄介になっておりまして……」
「……百合…姫? あなたが百合姫ですか?」
「え、黎深の話してた百合姫?」
俺も外へ出て百合姫をみる。髪質が殲華を思わせるもふもふ感に触りたくなるのをこらえる。女性の髪もふもふとか変態扱いされてしまう、危ない危ない
黎深が百合姫の話をするときは、百合姫への文句が多かったが、その内容は明らかに黎深が悪いものだったので、黎深を長年叱ってくれていた人として認識していた。
そして「黎深ならもうすぐ洗濯から帰ってくる」という悠舜の言葉に百合姫が「うちの黎深がそんなことするわけない」と帰ってしまうのを必死で止める
悠舜がワガママ大魔王、黎深の悪行を披露していくのを俺は、よくもまあたった10日でこれだけやらかしたなあなんて思いながらのほほんときいていた。
「う、う、うちの……………………黎深……みたい、です…………」
恥ずかしさに穴を掘って埋まりたいとでもいうような顔の百合姫
「でも悠舜の『お説教』で、ちゃんと炊事洗濯してるんだよなー」
その言葉に百合姫は口をあんぐりと開けた
「ええ、ぶつくさいいながら、ちゃんとやってますよ。元気すぎるほど元気ですから、ご心配なく」
その言葉に百合姫は口をパクパク開閉させ、自嘲の笑みを浮かべた
「……なんでもかんでも、最後はやってあげちゃったから、だめだったのかな……」
「え?」
「いえ。そうだ、これ差し入れです。おにぎりとお漬物とみかんです。皆さんで召し上がってください。ほかにも入用そうなものをさっき届けましたので、皆さんでお使いください」
深々と頭を下げる百合姫にありがとうございますとこちらも礼をして受け取る。
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bkm