9月3日





一度、命を落とした時に父さんと再会した。


その時、父さんがいなくなってからのことを沢山話した。話した割に言いたいことは上手く言えなくて、俺の『父さんを誇りに思う』その一言で父さんは母さんの所へ行けると言ってくれた。かつて、名誉も実力も欲しいままにしながら、仲間をとにかく大切にして来た父さんらしいと思った。
当時は、父親らしいことも出来ずにひとり勝手にこの世を去ったことを後悔し、悩み苦しんだ未練が残っていたのかと思っていた。だが、俺も父さんの年齢に近付いて、そして大切な人が出来た。今になって分かる。

「俺も、今なら父さんの気持ちが分かるな……」

俺のすぐ隣を歩くのは名前。父さんのところへ向かう前に、花屋で花を選んでくれた。両手で抱えるその花々は彼女らしい。それでいて、その優しい色合いは朧げな記憶に残る母さんにそっくりだ。

「何が分かるの?」

唐突な俺の独り言にも、名前は慣れたもので返事をする。彼女のこう言う所が好きだ。まるで、ずっと会話をしていたかのように俺も名前に返事をする。

「父さんが、死んでからも母さんのところへ行けなかった理由だよ」
「どんな理由?」
「愛する人のところに、格好悪い姿じゃ行けないでしょ」
「かっこ悪い?お父さん、とっても格好いい人じゃない」
「父さんはカッコつける人じゃなかったけど、男としてのプライドくらいあるでしょ」
「そっかー、でもカカシはプライドなさそうだよね」

名前はクスクスと笑いながら、失礼なことを平気で言いのけた。少しムッとして言い返す。

「俺だって、名前のところへ行く時には格好いい姿で行きたいよ」
「えー、それって私が先に死ぬみたい。勝手に殺さないでよね」
「ごめん」

俺のさり気ない口説きは、見事にシカトされてしまう。

ほら、着いたよ。名前は、ずんずんと進みひとつの御影石の前に立つ。彼女は途中で汲んだ水を、花瓶の中にいれて花を挿した。俺は持って来ていた布巾を濡らして、石を拭く。全く来てない訳ではないが、かと言ってこまめに来ている訳ではないから意外と汚れている。細かな葉も払えば、綺麗になった。

線香に火を灯し、手を合わせる。ちらりと隣を見れば、名前も手を合わせていた。俺の視線に気付いたのか、名前が俺を見上げる。

「ほら、最初はカカシからじゃないとね。私も言いたいの。ほら、ほら」

名前におされて、大人しくしゃがんだ。拭いて濡れていた石は、既に乾いていた。
太陽の温もりを蓄えた石を触れながら、父さんを思い出す。アカデミーを卒業した時も、初めての任務から帰って来た時も、父さんは良く頑張ったなと髪の毛がクシャクシャになるまで褒めてくれた。
今度は俺が父さんを撫でる。父さんは、やはりあたたかい。
石に彫られた父さんの名前、昔は俺の足枷に感じていた。でも、今は本当に誇りに思う。父さんは最後まで格好いい男だった。今の俺だから分かる。

「誕生日おめでとう、父さん」

隣で名前が笑っている、そんな気がした。







9月3日 end.

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