3月22日




「桜が咲いたのよ」
「もう、そんな季節か」

だからね、桜を見に行こう!と、名前は突然俺の家にやってきた。
大きめの俺の分と、少し小さめの名前の分のオニギリ。あとは、温かいお茶が入った水筒。それらが可愛い手提げ袋に入っていた。

俺達が来たのは、里の外れにある少し小高い丘。桜は数本しかないが、周りに住宅や店がなく人があまりおらず、俺達は気に入って良くふたりで来ている。
咲いてまだ間もないせいで、桜は満開とまではいかないが、なかなか綺麗だ。


「綺麗ね」
「うん、そうだね」

俺達は、桜の下に腰を下ろした。名前の作ってくれたオニギリを一緒に食べながら、桜を見上げる。

「美味い」
「良かった、桜のお陰でもっと美味しくなるね」
「名前が作ってくれたから、もっと美味い」

ンフフ、と笑いながらモグモグとオニギリを頬張る名前は可愛らしい。

俺が桜を見ながらオニギリを食べるなんて、数年前じゃ想像もつかなかった。名前と知り合って、友達になる暇もないくらいにすぐに俺は名前を好きになった。
それから名前は俺に優しくて楽しい時間を教えてくれた。
夏にはスイカの種を飛ばすコツとか、秋には焼き芋を落ち葉を集めて作ることとか、冬には霜の上を一緒に歩くと楽しいこととか。
それから、名前を好きになるとこんなに幸せになれることとか。

名前が恋人になったら、今年の夏も一緒にスイカが食べられるし、焼き芋を作る前に落ち葉に埋もれて遊べるし、霜が残る早い朝に名前を独り占めできるわけで。
名前の誘いを待ち遠しくすることも、名前の予定を覗いながら誘うことも飽きてしまった。名前を独り占めできる確約が俺にはオニギリよりも必要なんだ。

「満開になったら、また一緒にオニギリ食べに来ようよ」
「うん!楽しみだね、あと3日くらいかな」
「それからさ、名前、俺の恋人になってくれない?」
「うん!」
「本当に?」
「うん、私、カカシが好きだもん」

友達だなんて、一度も思ったことないもん。
サラリと言いのけた名前は、2つめのオニギリに手を伸ばした。

「俺もだよ」

喜びで言葉が出なくなり、やっと絞り出せたひと言。
名前は、俺に寄り添いもたれ掛かりながら可愛い笑い声をあげた。

「おじいちゃん、おばあちゃんになっても、こうやってふたりで過ごそうね」
「うん、そうしよう」

ひと足早く満開になった俺の春は、散ることを知らない桜が咲き誇っていた。





3月22日 end.

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