お父さんの気持ち





「どうして、そんな大切なことを言ってくれなかったのですか」
「言ってしまったら……」

名前は、両手を胸の前でギュッと握っていた。

「カカシさんは、私とこうして会って下さいましたか?」

そして、俺を恐れるようにそう言ったんだ。

「会いましたよ!俺は貴女を愛してるから!忘れた日なんて1日もなかった!名前さんが無事で、元気で居てくれていれば、そう、毎日、祈ってました……」
「……ずるいです」

言わなくてもお互いの想いが通じあってるかなんてね、とんだ思い上がりだったのかもな。
名前の泣き顔を見て、俺は酷く後悔したよ。初めて再会出来た時にきちんと想いを伝えれば良かったってね。そうしてれば、こんなに苦しめることなんてなかったのかもしれない。

「だから、もうカカシさんには会えません……」
「そんな」
「相手は貴族の方ですもの。私の意思ではどうしようもありません」
「もしかして、婚約者って」
「大名様の御子息なのです」

街で良く噂になっていた大名家との結婚話だった。噂によると、息子がこの街の別荘に来た時に一目惚れして求婚したって話だ。
そりゃ、名前は可愛い上に綺麗だよ。けど、当時の俺はとにかく腹が立って仕方なかったよ。なんで名前に目をつけたんだってね。俺からしたら、向こうが略奪婚だよ。

名前の気持ちが伴ってないのなら、素直に身を引くなんて絶対に無理だと思ったよ。
とにかく頭を回転させて、どうにか奴から名前を取り戻す方法を考えた。
そして、思いついたんだ。

「俺は忍なんです。もともと綺麗な存在じゃない」
「カカシさん?」
「誘拐なんてしたら、お姫様は怒りますかね?」
「え?」

そこからは早かった。
俺は名前を攫って、自分の宿に匿った。部下はギョッとしてたけどずっと暗部で共にしてた奴だからね。すぐ協力してくれたよ。

「先輩が最近、色気ついてたのに合点がいきました!」
「うるさいよ。ちょっと頼んだからね」
「はい!任せてください!」

城に忍び込んで、名前の血継限界について書いた文を父親の大名のもとに落とし込んだんだ。ま、名前は血継限界を受け継いでいなかったんだけどね。ちょっと方便って奴。
なーに、俺にとっちゃ城のひとつやふたつ入り込むなんて造作ないさ。

事を終えた俺は、名前を連れてご両親のもとへ行った。ご両親は、俺にもビックリしていたし、婚約破棄を画策していることにも腰を抜かしていたよ。
でも、名前と俺がずっと愛し合っていたことも、ご両親の面目の為に、無理して結婚を決めた事を知ってすぐに理解してくれたよ。殺される覚悟で行ったけど、本当に懐の大きさが違うと思ったよ。

「名前、私達はお前が幸せになってくれることだけが願いなんだよ。それに命の恩人である君になら、娘をやってもいいかな」
「ありがとうございます」

時間はそうかからなかった。血継限界の者だったなんて聞いてない!と激昂した婚約者がご両親のもとへやって来たんだ。
矢面に立ったのは父親で、名前は家の奥で隠れていた。

「申し訳ありません。どのように知ったのかは分かりませんが、我々も把握していないことでした。まさか娘が血継限界だったなんて」
「んなわけあるか!娘だろ!」
「名前は、養子なのです。名前も孤児になったころは子供で何も知らなかったようです」

俺と名前が子供の頃は戦争があったから、孤児なんて珍しく無かった。まあ、嘘も通せるだろうって思っていたけど簡単に騙されてくれたね。

「ふん!穢れた血を我が一族に入れる訳には行かないからな。こんな結婚破棄だ!破棄!」

ひと仕切りの罵詈雑言を浴びせて満足したのか、やっと帰って行った。元婚約者の背中が見えなくなるのを見送って、変化を解いた。当たり前だろ、矢面に立ったのは俺だよ。大事な名前のお父さんに頭を下げさせる訳にはいかないよ。怒った相手が殴りかかって来るかもしれなかったし。

「……終わりました」
「ありがとう。はたけさん」
「私のせいでこの街に居づらくなりましたね……」
「いいんだよ。ここじゃ仕事で不便を感じていてね。拠点を変えようと思ってたんだ」






「ワシは、調査をして来いと言って、嫁を作って来いとは言った覚えはないんじゃが」
「申し訳ありません、火影様」
「まあ、調査自体はしっかりしてくれている様だし……大目に見てやろう」
「ありがとうございます」

三代目様もきっとミナト先生から聞いていたんだろう。呆れた顔をしながらも、心から祝福してくれているのが分かったよ。

「名前さん、戻りました」
「おかえりなさい!」

婚約破棄の直後、後輩がご両親の護衛に残ってくれると言って俺と名前はすぐに里を出た。
ご両親はすぐに家を売り払って、俺と名前を追うように里に来てくれた。名前が里で心配なく生活出来るように、里の近くの家を見つけることにしたんだ。今のおじいちゃんの家が、この時に買った家だよ。凄いよね、行動力がさ。

当時、俺の住んでいた家は一人暮らし用だったからね。お嬢様育ちの名前を思うと、とてもとても狭くて可哀想で、暫く宿を取ってすぐに二人暮らし用の部屋を借りたよ。
生活が落ち着いてから、俺と名前はすぐに籍を入れた。幸せばかりの毎日に、俺は夢でも見てるんじゃないかって不安になることもあったけど、それを救ってくれたのもやはり名前だった。

暗部を辞めて少し経ってから、お前を身篭っているのが分かったよ。おじいちゃんとおばあちゃんは待望の孫だってね、凄かったんだから。フィーバーよ、フィーバー。生まれた時には、おじいちゃん似かおばあちゃん似かでバトルが始まってね、名前が父親似です!と決着つけてくれたんだけど。あんまりにも微笑ましくて、眺めてたら名前に怒られたのはショックだったかな。
おじいちゃん達のそんな所変わってないでしょ。

「もっと揉めるかと思ってた。てっきり、ママを巡ってバトルでも始まるのかと」
「揉めることも可能だったけど、名前の為には出来るだけスムーズに事を終わらせたかった。そう考えるとこうするのが1番だったんだよ。大名家って言うのは血筋を大切にするからね」
「にしても、展開速いね」
「そりゃそうよ。何年待ち続けてたと思うのよ」
「そっか。もうお父さんは、お母さん以外の人と結婚するとか考えたことはないの?」
「ないよ」

でも、お父さんの話の中でひとつ引っ掛かったんだ。

「お母さんは、穢れた血と言われて傷付いてなかった?」
「ああ、実はあそこにいた母さんってのも俺の影分身が変化したものだったんだよ。これは、おじいちゃんとおばあちゃんに秘密だよ」
「へ?そうなの?結構お父さんってやる奴なんだ」
「何よその言い方。ま、いいけど。名前は、想像出来ない程の地獄を見たんだ。それなのに泥の中で咲く白い蓮のように美しく育っていた。これ以上傷付くことなく、汚れないまま生きていって欲しい、そう思ったからね。これは、単なる俺の我儘だけど」

お父さんは、恥ずかしさを誤魔化すように鼻を掻いた。
その気持ち、私も何となく分かる気がする。





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