最終話
治療のお陰で、俺の体は復活まであと少しという頃、病室に来た綱手様が、事の経緯を教えてくれた。
あの男を雇ったのは、小国ながらも財力のある国の大名だった。
中忍試験で、ゲンマの下で監督官を行う名前を見て一目惚れしたのだという。大名は、試験中に結婚を申し入れたが名前は心に決めた人が居ると言って断ったそうだ。
諦めきれなかった大名は、上忍の名前を子供にして無力にしてから誘拐する計画を実行した。と言う訳だった。
大名は、条約違反をしたとして、火の国との国交断絶をするか大名の座を退くかを迫られ、大名はその座を後継者に譲ったと言う。
「私のせいで、本当にごめんね」
「名前は悪くないよ」
どんな経緯であれ、俺は名前が無事で居てくれて本当に嬉しかった。
しかし、名前には、中忍試験の時点で心に決めた人がいると言うのが引っかかる。俺が考えているのが分かったのか、名前はどーしたの?と聞いてくる。
「いや、中忍試験の時点で心に決めた人がいるって」
名前は、俺の両頬をペチペチと叩いてくる。行動の意味が分からなくて、俺はへ?へ?と変な声を出すだけだった。
「そんなの気にしなくていいの!」
「ごめん、でもさ……」
頬を中心に向かって、ギュッと寄せられる。唇がアヒルみたいになって、俺はすごくマヌケな顔になっているだろう。名前は、いつになく真剣な顔で迫ってくるのだから俺はついつい黙り込む。
「カカシはそーゆーの気にしないの!わかった?」
「はい……」
名前が誤魔化して来ると言う事は、やっぱり誰が好きな人が居たんだろう。俺の心はギュッと締め付けられる。結婚してくれるとは言え、それで良かったのかと俺は心配になった。名前の幸せのためなら、俺は身を引くことだって出来るんだよ。
「でも、やっぱりさ」
また頬をギュッとされる。
「もー!うるさい!本選前に会ったでしょ?カカシに一目惚れしてたの!わかった?」
「へ?」
名前は、突然熱くなった手の平で俺の顔をグニグニとして、もう言わないから!とそっぽを向いた。そっぽを向いても見える耳は真っ赤になっていた。杞憂で済んだ俺は、はーっと息を吐いて緊張感から解放される。
「なーんだ、良かった」
「え?」
俺は、名前をベッドに抱き寄せる。名前の耳に唇を寄せて、俺は囁いた。
「出逢った時から両想いだったんだ」
「へ?え、えぇ!?」
「俺も、一目惚れだから」
俺は名前の唇を味わうようにキスをする。
「名前、大好きだよ」
「カカシ、私も大好き!」
小さな体いっぱい使って俺を抱き締めてくれる名前が、愛しくてたまらない。
あの神社の神様、俺に幸せをくれてありがとう。
ついに4ヶ月が経った。
残暑も終わりを告げ、秋が来ていた。
見た目に変化は無いが、名前のチャクラは戻り、忍術も使えるようになった。名前が影分身の練習と言って増えたときは、ここはパラダイスかな?と思った。そんなこと言ったら怒られるだろう。
「さ、名前準備は良いか?」
「綱手様、お願いします」
呪印を解く日が来た。俺は、綱手様のサポートをする為に付いてきた。これで、子供の名前ともお別れだ。
「カカシ」
「大丈夫だよ。俺がいる」
体中に術式を書き込み、綱手様が印を組む。
名前は、叫び声を上げながら歯を食いしばっている。名前の腹から逃げる様にサソリが出てきて、俺はクナイでその息の根を止めた。
「こいつが、呪印の正体だ」
ピクリとも動かなくなったサソリを綱手様は、踏みつける。俺と名前は、容赦ない綱手様にギョッとした。
「名前、大丈夫?」
「うん。大丈夫、でも、体が変わらないね」
名前の体は子供のまま。
「大人に戻るまで時間が掛かる。まぁ、明日の昼、遅くて夕方には大人になってるだろ」
「良かったね、名前」
「うん!綱手様、ありがとうございます!」
頭を下げる名前と一緒に、俺も頭を下げた。綱手様は、気にするなと言って笑ってくれた。
「帰ろっか」
「ねぇ、カカシ?」
「ん?」
「おんぶして!」
「恥ずかしいから嫌じゃないの?」
名前は、俺の背中に飛び乗る。俺は、ビックリしながらも難なく受け止める。外で見られるのは恥ずかしいが、中でおんぶは甘えられていつもしていたから慣れていた。
「だって、大人に戻ったら、もうおんぶ出来ないでしょ?」
「甘えん坊だね」
「だって子供だもーん!」
自分で言っておきながら、自分が突然開き直ったのがおかしかったのか名前が吹き出して、俺もつられて溜まらず吹き出した。そのまま、俺達は家に帰る。
名前が、感慨深気な顔をしながら俺の体にもたれかかった。
「ねぇ、この4ヶ月本当に幸せだった。恋人としても大切にして貰えたし、何だかカカシの子供になった気分になれた」
「俺もね、幸せだった」
首筋がじんわり熱く濡れて、涙を流しているんだと分かった。家について、一緒にお風呂に入り、一緒にベッドに入る。思いの外、ベッドで盛り上がってしまったのは予定外だったが。
これからも続く二人の時間、なのに何だか寂しいのは不思議な気分だ。
「子供の名前も可愛かったけど、大人の名前も好きだな。どっちも凄く好き」
「そう?」
「名前に似た子供作ろうね」
「私は、カカシ似がいいな」
「じゃあ、2人欲しいね」
「だね」
「んー、子作り頑張るから」
「もー!」
俺達は、笑い合って眠りに就いた。
翌朝、また早い時間に目が覚めた。ずっと心配だった名前の方を見る。
「あ……。」
俺が一目惚れした時と同じ、美しい名前が眠っていた。
長い四肢がすらりと伸び、子供サイズのパジャマは、豊かな胸でボタンが弾けそうだった。子供の頃の面影が残る美しい寝顔。色気が溢れている。久しぶりの名前の大人な香りに、俺は体中が沸騰してしまいそうだった。
「名前」
俺は、大人の名前を抱き締める。名前が身じろぎして、目を覚ます。
「おはよう」
子供の名前と同じ、目を擦る仕草が可愛い。
「あ、私……」
名前は、自分の体に気付く。
勢い良く起き上がった瞬間、ボタンが弾け美しい胸があらわになった。俺の目は当然、そこに釘付けになる訳で。
「大人に戻ったー!」
「そ、そうだね」
寝ている俺に抱き着いてくる名前。久しぶりに当たる、その柔らかい胸に、俺は戸惑う。久しぶりだからって興奮するな俺!
「カカシは、嬉しくないの?」
「う、嬉しいよ」
「何か余所余所しいよ?」
「いや、むしろ良い眺めだなぁって」
ニヤニヤする俺に跨がる名前は、そこでやっと気付く。名前は、胸を隠すために俺に再び抱き着いた。
「ねぇ、名前。ネックレス頂戴?」
「ん?」
俺は、名前のネックレスを外し指輪を引き抜く。起き上がり、名前とベッドの上で向かい合った。
朝日に照らされた名前の姿は、まさに女神だった。長い髪がキラキラと輝き、白い肌は光を透かしていた。
「名前」
俺は、その美しい指に指輪をはめる。
「ほら、ピッタリ」
美しい指輪が、本来収まるべき指にはまり、その美しさを輝かせていた。
「本当に綺麗」
「名前の方が綺麗だよ」
「カカシ」
俺は名前を抱き締める。もう離さない、ずっと傍にいる。そう想いを込めて。
「名前、愛してるよ」
「私も愛してる!」
「ずっと一緒だよ」
名前の熱い涙が、俺の頬を伝う。
思えば、昨日までの時間は幻の様だった。
でも、確かにこの体に小さな名前を抱き締めた。
次に、小さな名前を抱き締めるのは何年後だろうか。名前が産んでくれた可愛い子供を。
でも、やっぱりまだ二人の時間を楽しみたいなーなんて思ったり。
「ね、カカシ。新婚旅行いこうよ」
名前の笑顔に、俺の胸は高鳴った。
俺の好きと言う気持ちを、簡単にどんどん高めてくれる女神。
「いいね、どこがいい?」
俺は、どこでもいくよ。名前と一緒なら。
夏の夜の夢 end.
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