お手伝いさんと俺@


お手伝いさんと俺@


9月15日。
今日は、俺の誕生日だ。
何回目かは聞かないでくれよ、野暮だから。

火影を引退した俺は、時々ナルトに頼まれて極秘任務をこなすこともあるが、基本的には隠居生活。ガイと愛読書の聖地巡礼をしたり、思い立って急に温泉に行ったり、ガキの頃から忍者をしていた俺にとって人生で初めての穏やかな日常だ。
何もしなくて良いと言われると、かえって何をすれば良いか分からなる。

だが、そんな贅沢な悩みはすぐに消え去った。

「カカシ様!起きて下さい!」

火影引退後、俺は周りからの勧めで二人暮しをしていた。二人と言っても、そんな別に甘ったるいものではなく、ただのお手伝いさんなのだけど。
これが、まあ元気なお手伝いさんでね。最初は猫を被っていたものの、すぐに化けの皮は剥がれた。

「早くない?」
「早くないですよ。この時間に起こしてって言ったのは、カカシ様じゃないですか。修業したいって」
「あ、そうだったかな」
「そうです!今日くらい、修業お休みしたって良いと思います」

彼女は、とても真面目に仕事をやってくれる。部屋の隅に埃が溜まることはないし、料理だって飽きないように工夫してくれている。こんなに良いなら、現役時代から彼女と知り合いたかったね。

「夕方には戻るからね」
「はーい。帰宅時間遅れたら許しませんからね」
「誰が遅れるって言うのよ」

俺は、六代目火影に就任してからは時間と体が許す時は修業をするようになっていた。それは今も変わらない。九尾のチャクラ、仙術を持つナルトの脚を引っ張りたくない思いもあるが、もっと強くなることが何よりも里の為になると思ったからだ。
チャクラ量は現役よりも格段に増え、術の精度を上げに上げた。三代目を見て思っていたが、やはり忍は年齢ではないのだ。

「じゃあ、行って来るよ」

彼女の作ってくれた特製の栄養ドリンクは、最近の人はスムージーとか呼ぶらしい。最初はドロドロした飲み物に少しだけ抵抗を覚えたが、これが結構旨くて、更にドリンクだが野菜やフルーツの組織も同時に採れて消化が良く腹の負担にもならない。俺は修業の度にこれをお願いしていた。

普段よりも負荷のある修業で、中年の肉体には堪える。こう言う時は、風呂に入ってマッサージに限る。

「おかえりなさい!」
「ただーいま」

ドロドロになった俺がすぐに風呂に入れるように、彼女は風呂を沸かして待ってくれている。家の中は美味そうな料理の匂いに包まれている。

俺の好みに温度調整された湯船に浸かりながら、俺は彼女のことを考えていた。日頃、良い働きをしてくれているのに俺は何も返せてない。いや、給料はちゃんと与えているつもりだが足りているだろうか。子供の頃から高報酬の高ランク任務を受けていた俺は、どうやら人と金銭感覚が違っているらしい。民間人の彼女に俺の買い物に関して幾度か、とても驚かれたのだ。

「カカシ様、大丈夫ですか?」
「ん?どうした?」
「いえ、いつもより長湯でしたので、死んでるかと思いまして」
「そりゃあ、すまないね」

彼女は丁寧なのか失礼なのか。まあ、この距離感が俺には丁度良いみたいだけど。
風呂から上がり、ふわふわに仕立てられたタオルで体を拭く。彼女のお陰で俺は家事を殆どしなくなって、却って暇になっているのだがそれでも毎日が賑やかなのは彼女のお陰だろう。
食卓には既に美味しそうな料理が並べられていて、彼女はちょうど味噌汁の火を止めた所だった。

「カカシ様、お風呂上がりはご飯にしますか?それとも……」
「ご飯頂くよ」

これから面白い所だったのにー。彼女はそう唇を尖らせながら、熱々のご飯を茶碗に盛っている。俺は俺で定位置の椅子に座る。向かい側が彼女の席だ。働き始めは彼女は自室に持ち帰り食事をしていたが、俺の提案で共に食事をするようになった。彼女の料理は元々美味しいが、共に食せば更に美味しい。同じ屋根の下で住んでいるのだし、別にどっちの立場が上とか下とか俺にとっては全くないのだから一緒に食事をしようと言ったのだ。

彼女の言う面白いこととは、一体何だろうか。時折、彼女はおかしなことを言って来て俺をワクワクさせる。まあ、今日の目星はひとつしかないのだから。

「じゃあ、ご飯の前にもう一個のほうにしようかな」

「え?本当ですか!」
「うーん、俺は何となく怖いけど」
「失礼ですよ」

彼女は、慌てて手を拭いてエプロンを脱いだ。
椅子に座って目を閉じろと言われて、大人しく従う。何やら布の擦れる音と俺に近付く足音。

「カカシ様、目を開けて下さい」
「はいよ」

目を開けると、テーブルの上に綺麗な包装紙に包まれた箱。

「なによ、これ」
「何って、今日はカカシ様のお誕生日ですよ」
「あら、覚えててくれてたのね」
「当たり前じゃないですか」
「うん、ありがとう」

包み紙は、思ったよりも軽い。

「何が入ってるの?」
「きっと喜んでくれるものです。探すの大変だったんですから」

彼女が一体いつまで俺の元で働いてくれるのかは知らないが、こうやって歳を食うのも悪くないかも知れないね。

「ありがとう。俺の為に」
「当たり前じゃないですか。カカシ様には感謝してもし切れませんから」

それはお互い様だ。
こうして彼女の思い遣りに触れることが出来て、つくづく俺は幸運な人生だと思う。
明日を楽しみに生きていけることが、こんなに幸せなことだとは俺は知らなかったのだから。


つづく



お手伝いさんと俺@ end.

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