a merry little…



年の瀬は、駆け込み需要で任務の依頼が無駄に入ってくる。そんなことを忍に依頼するなよと言うことまで、とにかく沢山。
膨大な数の依頼人から受付処理をし、里の下忍から上忍にまで任務の依頼書を火影様が決めた割振り通りに渡していく。

「遅い…」

割振りからすれば、もう任務から帰って来てもおかしくない時間にあの上忍が帰って来ない。普通なら、何処かで何かあったかも!と心配するべきなのかもしれないが、奴が死ぬ訳がない。
私の予想通り、奴が間抜けな顔で帰って来た。

「いやー、悪い。帰り道、狸に化かされてね」
「はい嘘!」
「もー、そんなに怒んないでよ。名前ちゃん」
「怒ってないし。はい、次の任務」
「えー、まだあんの?」
「里の自慢の忍なんだから、頼りにされてるのよ」

カカシは、事務処理をする私の顎を掴んでグイッと上に向けさせる。周りに人がいるのに!

「ちょっと!」
「任務これで最後でしょ?すぐ終わらせて帰るから、俺の家で待ってて」
「う、うん……」
「ごーかっく」

ふと、周りの目線を感じて見渡せばくノ一の方達からの冷たい目線を浴びせられた。ヒソヒソと話し声が耳に届く。

ーーどうしてあんな冴えない女と
ーーどうせ遊びよ

カカシと付き合ってから、何度こう言われたんだろう。その度に、私のちっぽけな自尊心は傷付けられて更に小さくなっていく。

受付業務を終えて、私は報告所を出た。
商店街で買い物をして、カカシの家に向かう。約束してたのを忘れていなくて、私は嬉しかった。一昨日も来たばかりのカカシの家は、こざっぱりとしている。クールな見た目に反して、絵が飾ってあったり、自分の班の写真が飾ってあったり、そんなのを見る度に案外可愛いのねと頬が綻ぶ。

料理を作りながら、考えるのはカカシのこと。

私は、特別可愛いわけでも、アカデミーの頃から優秀なわけでもない。両親は一般人の普通の人で、だから私も普通の中忍で、忍なのに器用じゃないし。
そんな私を、カカシは好きと言ってくれた。捻くれる私を、そのままで充分魅力的だよ、と言ってくれる。そう言われる度に、すごく嬉しくて嬉しくて幸せなんだよね。
それなのに、もっと可愛く好きを表現できたら良いのに、気持ちとは裏腹に雑な態度をとってしまう。

本当に贅沢を言っているのは分かっている。
でも、自分に自信がなくて、すごく不安になる時があるの。
受付業務をしていれば、優秀で若くて美人のくノ一がくる事もある。そんな美人がカカシの話をしていたりしたら、あぁ、あの人にカカシを奪われても仕方ないよね、と思ってしまう。

でも、カカシだけは譲りたくないの。なんの取り柄もない私が見つけた眩しいくらいの幸せだから。棚ボタで好きになって貰えただけなのに、本当にワガママだよね。

あぁ、折角の夜に何考えてんだか。

「あ……」

聞き慣れた足音が聞こえて、玄関に走る。
その人が鍵を取り出すよりも早く扉を開ければ、私が扉を開けることなんて分かってたんだろう、笑顔で立っていた。

「おかえりなさい!」
「ただーいま」

玄関に入るなり、私を抱き締めてくれた。汗に混じった貴方の匂いが大好きよ。

「はい、クリスマスケーキ。初めて一緒に過ごすクリスマスにないのは寂しいでしょーよ。」

それに、俺が苦手だから好きなのにケーキ買わなかったでしょ。と、笑ってくれる。
あぁ、もう何で分かってくれるの。

「美味しそうな匂いがする。腹減った」
「もうすぐ出来るよ」
「手伝う、早く食べたい」

手甲を外す仕草も色気があって、密かに見てしまう。料理だって私よりも段取り良く出来るはずなのに、カカシは私に合わせてくれる。自分には出来すぎた彼氏だ。

「おーい、名前」

あ、カカシ。

「名前ったら、突然ボーッとするんだから。そんなにケーキ楽しみ?」
「う、うん」
「なーんか、名前変」
「そんなことないよ」

浮かない私を余所に、カカシは美味しいと料理を食べてくれる。食後に、カカシが買ってくれたケーキを食べた。カカシは、ニコニコして見てるだけで食べなかった。
本当に私の為に買ってくれたんだと思ったら胸の中が温かくなった。

「美味しい?」
「うん、甘くて美味しい」
「名前は本当、甘いの好きだね」
「うん、好き」
「俺とどっちの方が好き?」
「え!?」

冗談だよ、と笑ってカカシはシャワーを浴びに行ってしまった。いつもなら一緒に入ろうとか言ってくるのに。
何だか寂しいな……と思いながら、余ったケーキを冷蔵庫にしまった。

カカシに後ろから抱き締められながら、布団に潜り込む。今日は任務が多かったから、すぐにカカシは眠ってしまって、私はまたひとりネガティブな思考に陥っていく。
ああ、こんなんじゃ駄目。でも、今日は考え事が多かったせいか、私もいつの間にか眠っていた。






ふと、布団が冷たくて目が覚めた。
相変わらずカカシの腕は、私の体に巻き付いていた。

「ん?」

枕元に、綺麗なリボンに包まれた箱が置いてあった。私はビックリして、飛び上がってその箱を手にする。流石にカカシも目を覚まして、のそりと起き上がった。目をまんまるにしているであろう私を見て、クツクツと笑った。

「名前の所にもサンタさん来てくれたんだ。名前はイイ子だからね」
「私、もう大人だよ?」
「大人でも、名前は飛び切りイイ子だからだよ」

流石に冴えない私でも分かる。カカシが寝ている間にプレゼントをこっそり枕元に置いてくれたことくらい。
パジャマ姿でベッドに座り込んでプレゼントを抱える私は、きっと子供そのものに違いない。

「あ!カカシ、待ってて!」

私は、鞄から小さめの包みを取り出してカカシに渡す。

「メリークリスマス!」
「ありがとう」

カカシは包みを開けて、少し複雑な顔をした。なんとも言い難い表情でプレゼントを見つめている。
あぁ、もしかして欲しいものじゃなかったかな……。

「ご、ごめん」
「どーしてよ?」
「だって、欲しいものじゃなかったんだよね」

カカシは、参ったなーと頭を掻いた。

「いや、嬉し過ぎてどんな顔して良いか分かんないのよ」

カカシの腕が、また私に巻き付いた。

「良い子で優しくて、いつも俺の為に頑張ってくれて、俺の事見てくれてる名前が可愛くてどーしよ……」
「カカシ……」
「だから、悩むなんてやめなさい。周りが何と言おうが、お前が何と思おうが俺は名前だけだよ」

やっぱりカカシは、全部分かってるんだ。

「カカシ……ありがとう」
「俺こそ」

私の小さな鼻に、カカシの綺麗な鼻を擦りつけてきた。照れ臭すぎてきっと私の鼻は真っ赤だろう。

「私もカカシだけが好き。大好きよ」
「俺も大好き」

あぁ、サンタさん。私が頑張ってたから、こんなに素敵なプレゼントをくれたんですか?
これからも良い子で頑張りますから、来年の今日もこんな素敵な時間を下さい。

大好きなカカシと一緒に素敵な時間を。

心の中で届くか分からない願いを切に祈りながら、私は愛しい人の柔らかい場所に唇で触れた。





a merry little… end.

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