初恋は叶わない2


先輩にフラレてから、あっと言う間に半年が経った。

時間が解決してくれるって言うのは本当だった。今でもあの時の想いは胸をチクリと刺すけれど、もう涙が出ることはなかった。任務も普通にこなせるし、待機所で先輩に会っても普通に挨拶もできるようになった。
流石にフラレたばかりの時は、先輩も気不味そうにわざとらしい位に優しくしていたけれど。私が気にしてないフリをしてから普通に対応してくれるようになった。
気にしてないフリをしていたら、本当に気にしなくなってきた。初恋なんて、こんなもんだろう。あの夜、絶望的だった私の心は何処に行ったんだろう。そうじゃなきゃ、世の中やっていられない。

「名前、行くよ」
「はい!」

暗部を抜けたカカシ先輩は、正規部隊に戻って来た。担当上忍をするとか、しないとかで暗部を解かれたらしい。カカシ先輩が自分の師になるなんて、未来の下忍が羨ましく感じた。

カカシ先輩が前を走り、思わず私はまじまじと見つめてしまった。暗部装束を身に纏ったカカシ先輩は、有り得ないくらいカッコよかったけど、忍者ベストを着た先輩もカッコよかった。私の間抜けな視線を感じたのか、少し振り返るとニコリと笑った。

「何?」
「い、いえ!何でもないです!」
「変なの」

敵は強かった。それ以上に、久し振りに見るカカシ先輩の実力は、やっぱり凄すぎた。それに比べたら、私は敵の攻撃を食らって怪我をしてしまった。任務はなんとかうまく行ったものの。カカシ先輩じゃなかったら、どうなっていたんだろう。
里の手前の川に腰を下ろし、やっと一息つく。この辺は、木ノ葉の警備が厚いから一安心だ。 

「大丈夫か?」
「はい、すみません……」
「いーや、あそこで名前が来てくれなかったら、俺が攻撃を食らっていたよ。本当にごめんな。でも、ありがとう」

カカシ先輩が、貸してみと言うので手を差し出そうとした。が、岩の苔に足をとられて先輩にしがみついたまま川に突き落としてしまった。

あー、やっちゃった!

幸いにも川は浅く、川底に座り込んだ。濡れて髪がヘナヘナになった先輩が私を見下ろしていた。

「は、カカシ先輩!」
「名前ー、お前ってやつは」
「す、すみません!」
「ま、いーよ。この方が血を流しやすい」

カカシ先輩は、私の袖を捲りあげると川の水で血を流してくれた。

「痺れるか?」
「少し」

私の傷から血を絞り出して、軟膏を塗ると上から布を当ててくれた。

「名前が無事で良かった」
「すいません。本当に私ドジが治らな……」

言い終える前にカカシ先輩に抱き寄せられた。これがどんな状況なのか私は知らない。だって、私は初恋を失恋したばかりだから。男の人と女の人はどうするかなんて、私はまだ知らない。

「先輩…?」
「名前」

聞いたこともない湿っぽい声に、私はビクッと跳ねてしまった。

「もう傷付いてない?」
「……はい」
「なら、よかった」

そう言って、カカシ先輩は私からぱっと離れた。

「念の為病院に行きなよ」
「はい」

腕の傷がジンジン痛むのは、痺れ薬のせいなのか、心拍数が突然上がったからなのか分からない。私には経験が少なすぎる。ただ、優しいからって好きだと勘違いするなと言うのは経験から学んだんだ。

「あ、そーだ」
「?」
「無理はするなよ」

また大きな掌で私の頭を撫でてくれた。私はこの手に何度助けられたんだろう。

「カカシ先輩!」

私は精一杯背伸びをして、カカシ先輩の頭を撫でた。私の行動が予想外だったのか、先輩はキョトンとしてから、優しく笑ってくれた。

「先輩も無理しないで下さいね。それから、好きな女の子のことも、お話聞いてないし……」
「だから、それは話したら叶わないから駄目。話す時はちゃんと話すから」
「そうですよね、残念」

唇を尖らす私を見て、カカシ先輩はクスクスと笑った。

「名前のそう言う所、可愛いと思うよ。忍のセンスは抜群なのになー。すごいギャップ」
「え!?」
「ま、名前がちゃーんと元気になったらね。ちゃんと話すから」

カカシ先輩には、まだ私が先輩を時折思い出してはチクリと胸が痛めていたのをお見通しだったみたいだ。本当にこの人には敵わない。

「名前、帰るよ」

伸ばされた手を握ったら、あんまりにも肌が心地良くてずっと手を繋いでいたいと思った。阿吽の門の前で、離された時は何とも言えない寂しさが私を襲う。

あぁ、この感覚なんて言うだっけ。なんだっけ。そう、えっと、あれ。あれだ……。

「あー!」
「ちょっと…突然大きな声でどーしたの。」
「あ!いえ、すみません」
「変なの」

何だか分からないけど、すごく胸があたたかくなった。
何故だか分からないけど、次、カカシ先輩に会ったらきっと元気になっている気がした。

「じゃあ、またね」
「はい、今回は本当にありがとうございました」

木ノ葉病院と報告所の分かれ道で私達は背中を向けた。
ふと気になって、ちらりと振り返ったらカカシ先輩はこっちを見てくれていた。

笑顔でじゃあな、と手を振ってくれて私も自然と振り返した。ふと堪らなく恥ずかしくなって、私は手を降ろして病院に走り込んだ。受付を前にして、やっと私は高鳴る胸を落ち着かせる。
顔の赤い私を心配して受付の人が声を掛けてくれた。私は、久し振りに明るい声で答えた。


「もう、元気になりました」







初恋は叶わない2 end.

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