困ったさん2




「ねえ、この書類はどこから湧いてくるのよ」
「六代目と忍の皆さんのお陰で、里が大きくなって他国との交流も増えましたからね。世界中からです」
「…………国交断絶しようかな」
「こら、六代目」

カカシがやっつけた紙の束を、名前は関係各所に発送できるように纏めていた。並べられたタワーをひとつずつ確実に崩す。これが全て綺麗さっぱりなくなるのが密かに快感だったりする。
結構なスピードで判を押し、サインしているにも関わらず、カカシの六代目火影の印は真っ直ぐで掠れもない。些細なことかもしれないが、それを見る度に改めて火影になる人物は違うのだと感じていた。

「ひゃ!」

後ろから突然抱きつかれ、名前は咄嗟に飛び退く。このときばかりは暗部で良かったと実感した。ガッカリとでも言いたげなカカシがそこにいた。

「名前、疲れたからキスだけしてよ。本当はデレデレなんでしょ?」
「そ、それは!」
「ほら、他の人の気配もないから。ね?」

マスクを下ろした素顔が迫る。名前は一歩後退る。

「名前じゃ、俺からは逃げられないよ。分かる?」
「分かってます!」

そりゃ、元暗部でエリートとは言えただの忍と現役の火影様、どう足掻いたって実力の差は歴然だ。分かってはいたが、それをカカシに言われたことが何だか悔しくて、名前は唇を噛んだ。

「た、確かに……私は弱いかもしれません。でも……!」
「……弱い?何の話?」
「はい?」
「名前は俺を好きでしょ?だから、好きな俺から逃げるなんて本心ではできない」
「火影室では違います」
「それともうひとつ、俺は名前が好きだから逃げられても追いかけるよ。捕まえるまでね」

だから、俺からは逃げられないの。分かった?とカカシは上機嫌に宣った。私の頭の中なんてお見通しの癖に、本当にこの人は……。

名前の体から力が抜けた瞬時、カカシが名前を壁際においやった。

「ほら、ね」

太腿の間にカカシの膝が入り、両手が顔の真横に置かれる。これで上下にも左右にも避けられない。カカシの顔が名前に近付く。
徹夜続きだったし、今日くらい大目に見てあげよう。名前が目蓋を下ろそうとした時。

ひたり、気配がする。

「ひ、人来ましたよ!」
「そうだね」
「離れて下さい!」

カカシの顔を名前が両手で押し退けようとする。しかし、簡単にはうまくいかない。
その間にも気配は近づく。これは確実に火影室に向かってきている。焦る名前に対して、カカシは相変わらずマイペースにしていた。

「キスしたら離れるから」
「ほ、本当ですか?」
「うん、ホントホント」

調子は良いが、嘘はつかない男だ。ええい!と名前は目蓋を下ろす。ぎゅっと閉じた目蓋を見て、カカシが唇を近付ける。

あと少しで触れる、その瞬間だった。

「何してんすか!」

シカマルの目の前には、カカシの顔を手で抑える名前、そして四肢を使って名前を壁際においやるカカシ。シカマルからはどう見てもカカシを拒絶する名前と、名前に襲い掛かるカカシにしか見えない。

「カカシ先生、何してんすか」

カカシを見て、名前を見て、またカカシを見て、シカマルはの顔はどんどん青白くなって行く。

「流石に権力濫用はまずいっすよ」
「なに、俺が無理やりやってると思ってんの」

名前の手で塞がれたままで、カカシの声はくぐもっている。エロ本は読んでても理性的な人間だと思っていたのに。

「普通に考えてそうでしょう」
「じゃあ、普通に考えるの止めようか」

シカマルの頭の上にハテナが浮かんでいるかのようだ。カカシはまるで火影の余裕とも言える、謎の余裕をたっぷりと顔に浮かべた。

「ま、俺達こう言う関係だから。お前が水を差したの」
「は、はあぁ!?」

ま、そう言うことだから。ニコリと微笑んだカカシを見て、察したシカマルが後退りしながら火影室から出て行った。
やっとそこで名前はカカシの顔を開放し、カカシは暫くぶり新鮮な空気を肺の底までいっぱいに吸い込んだ。

「いやー、気が利く部下がいると助かるな」
「六代目は本当に……呆れました」

名前が嘆息つくと、カカシが窺うように首を傾げた。

「こんな火影は嫌い?」
「こんな火影様は嫌です」

キッパリと宣言する名前。今は完全に秘書の顔になっていて、こりゃ、テコでも無理だなと諦める。
カカシは肩を落としながら名前から体を離し、椅子に深く腰掛けた。頬杖をつき、判子を手に取った。書類に判を押し始めたその時だった。

「でも、こんなカカシなら好き」

名前はカカシに背を向けて、書類の束を処理し始める。

「え?名前?」

少し腰を浮かし、名前を呼ぶ。だが、名前は一向にこちらを向く気配はなく、カカシは焦れったくなる。

「お仕事ですよ、六代目」
「嫌」
「ワガママ言わないで下さい」
「あれ、体が……チャクラ切れだな」
「嘘つかないで下さい」

諌める間も全くこちらを見てくれない名前。いつもの仁王立ちはなく、いよいよ愛想を尽かしたかと心配がこみ上げる。胸が苦しくなり喉がつっかえる感じがして、カカシは腰を完全に上げると名前の背後に立った。

「名前、ごめんね」
「何がですか?」
「調子乗ったから」
「本当ですよ」
「……ごめん」

こんなとこ、他の部下に見られたら面目丸潰れだ。

「ねえ、名前こっち見てよ」
「…………」
「顔見て謝りたい」

名前の肩が上がり、激しく落ちた。ため息をつきながら振り返れば、カカシの顔が思っていたよりも近くにある。
そして、名前があっと思う前には唇が重ねられていた。

「これで、100」
「数えてたんですか」
「当たり前じゃない。次の目標は1000ね」

また唇を重ねる。今度は少し長い。
唇の先だけを触れ合わせながら、カカシは口を開く。

「こんな火影でごめんね、怒った?」
「呆れます……でも、こんな火影様も好きって言ったら……駄目かな?」
「……駄目じゃない」


また触れ合う唇。

シカマルは、まだ戻れそうにない。



あとがき




困ったさん2 end.
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