人形姫・??
後日談
「名前はともかく、気が散るから俺に気配を気付かせないようにしてくれよ」
「そんなあ、カカシ先生無茶言うなってばよ」
護衛のナルトとサクラに釘を刺してカカシは名前の隣に寄り添った。
名目上は、火影と火影夫人の公式訪問だが、日程を数日余分に組んだ。折角国外に行くなら新婚旅行代わりになるだろうとシカマルやシズネが計らってくれたのだ。
カカシは任務や公務で国外に行くことは多くあったが、里の外にカカシなしで出ることさえ無い名前にとって、この世界で初めての国外だ。
名前は、眉を下げて肩をすくめてカカシを見上げた。
「やっぱり徒歩なんだね……」
「まあまあ、風の国と鉄道を作ることにしたからさ。完成したら線路の一番遠くまで行こうよ」
「うん!」
名前の荷物はナルトが持ち、サクラと共に仲睦まじい2人の後ろを歩いた。
カカシがさり気なく手を繋ごうとするが、サクラとナルトに見られるのが恥ずかしいのか名前はさり気なく逃げていた。
その様子を、後ろの2人は顔を見合わせて声を出さずに笑い合った。一国の大名と同等の権利を持つ火影が、この小さな恋人、否、妻には勝てそうもないのだから。
「先生、意外と尻に敷かれるタイプかもな」
「ちょっと意外だけどね」
「面白いから、サスケにも教えねえと」
後ろで教え子が自分の噂をしているのを耳にしながら、名前になら尻に敷かれてもいいかもなと頬を緩めた。これだから、相当にどうしようもない。
「ねえ、名前」
「なあに?」
「楽しみだね」
「うん!でも、他の影様に会うのは初めてだから緊張する……かも」
「大丈夫だよ。俺が居るから」
もう既に名前には、礼儀や作法は身に付いているとは思うが、念の為にカカシはひと通り外交についての話をした。
「ま、堅い話は俺がするからさ、名前はいつも通り朗らかに居ればいいよ」
「分かった」
「新婚だし、それについて聞かれるだろうね」
「そっか、何か恥ずかしいね」
ハニカミ笑う名前に、カカシは例えばさ、と切り出した。
「子供は何人のご予定ですか?とかね」
「子供か、そうだよね」
「俺は沢山欲しいな。そうだ、今夜作ろうか」
明日の夜だと時間が無さそうなんだよね、今夜が1番仕込めるかなと話を進めるカカシに、名前は恥ずかしさと困惑の色を浮かべた。
カカシとの子供なら何人だって欲しい。でも、まだ時期尚早だと名前は思う。
「そ、それは駄目!」
「えー?俺との子供が欲しくないの?」
カカシはわかり易く落胆の色を見せた。それを見て名前は慌てて訂正する。
「違うよ、あのね、まだカカシと2人でいたいの。まだカカシを独り占めしたいの。それって、駄目かな?」
心から願って願って、やっと再会出来たのだ。あんなに素敵な人だから、新しい人を見つけてしまってもおかしくない。身勝手にその様子を想像して枕を濡らす夜もあった。
それなのに、こうしてカカシと一緒にいる、それがどんなに奇跡であるのか実感している。この幸せに、溺れる程にまだまだ浸っていたい。
カカシは自分が普段マスクを掛けていることにこれほど感謝したことはない。見えていないのに、それでも不安になって手で口元を隠した。
「今のは反則でしょう」
可愛すぎる新妻の要望に、カカシは堪らず肩を抱き込んで耳元に囁く。
「分かった。今夜はちゃんと避妊するから」
俺は欲しかったから、昨夜はごめんね、気を付けるよ。と続けるカカシに名前は、赤らめた頬を膨らませた。
「もー!良い雰囲気だったのに!」
「ご、ごめん」
小さなゲンコツをカカシの胸に幾度となくと当てる。突然始まった喧嘩に、ナルトとサクラは慌てるがカカシが余りにも幸せそうに目尻を下げているので見守ることにした。
そう、これは喧嘩ではなく、イチャついているだけなのだ。
名前の握り拳をカカシの手が包んだ。途端に名前は大人しくなる。握った指をひとつずつ解いて、カカシは自分の指を絡めた。
「ほら、やっと繋げた」
「あ……」
「周りの人達にさ、見せつけてやんないとね。俺と名前には、つけ入る隙もないってとこ。名前は可愛いからさ、野郎達に牽制しておかないと」
火影の奥さん狙う奴がいるかってばよ、と至極真っ当な声も聞こえた気がしたが、名前を丸め込む為にはこうした方がいいのだ。
我ながら意地汚いとは思うが、名前を独り占めする為には致し方ない。火影になったって、独占欲が弱くなる訳では無いのだから。
名前は、ねえ、あのね、と突然耳を赤くしながら声を上げるものだから、カカシはどうしたの?と期待に胸を膨らませる。きっと名前のことだから、可愛いことを言ってくれるに違いない。
「カカシこそ、格好良いんだから、私の旦那さんだよ!って見せつけてもいい?」
名前はいつも、期待を大きく裏切る。
そんな可愛い質問に、ノーと答える自分が何処にいるのだろうか。
「良いよ、俺は名前の旦那だからね」
「ありがとう!」
可愛い笑顔で、飛び跳ねる。今のも、反則。
こうして、名前に無自覚に丸め込まれながら、一生幸せにさせられるのだ。
「じゃあ、腕組んでもいい?」
「もちろん」
これからは、ほんの少しだけ歩くのが遅くなるかもしれないが、きっとそんな景色も悪くないだろう。
カカシは、想像しながら目尻を下げる。腕を差し出しながら少しだけ歩幅を小さくした。
後日談 end.
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