人形姫・13



急いで自宅に戻ると、カカシは箪笥をひっくり返した。名前が似合うと思うからと買ってくれたシャツとパンツを引っ張り出す。

名前の生まれた世界では、忍服は着ていたら仮装だと思われてしまう個性的な服装らしい。初めてカカシを見た時、カカシのことを忍者役の役者だと思っていたと聞いて笑ったものだ。
この格好なら、里でも名前の世界でもおかしくないし、絶対に似合うからとプレゼントしてくれたのだ。
里の外にデートに行く時に時折着ていたが、まさか、こんなカタチで役に立つとは思いもしなかった。
忍服を脱ぎ捨て服を着替えた。姿見の前に立って、マスクをつけたままだったことに気付く。顔を隠すと怪しまれるとも言われていたっけ。まあ、これは向こうに着いてから下ろせば良い。

服の下に念のために武器を1本仕込んだ。名前は向こうの世界でも腕力のない人間ではあったと思う。それを考慮しても、向こうの世界で何かあったとしても素手で間に合いそうだ。
腰にポーチだけつけて、そこに名前がこの世界に来た時に持っていた精巧な紙幣をクリップに挟んで入れる。

「名前、約束を果たすよ」

ずっと大切に保管していたケースを確認して、それはそれは丁寧にし舞い込んだ。

何を準備すれば良いのか分からず、もっと名前に聞いておけば良かったと後悔した。嘆いても仕方の無いことだと切り替え、黙々と準備を進める。アレコレ考えたが、最低限の荷物に落ち着いた。

その時だった。

「おーい!せんせぇー!」

呼び鈴と共に聞こえた声。この声は、とカカシは玄関を開けるとナルトが立っていた。

「どうした?」
「綱手のばあちゃんからのおつかいだってばよ」
「そうか」
「あんまり反応よくねーな」
「いいや、お前が来てくれて助かったよ」

中へナルトを招き入れる。この術を使えば、どこに落とされるか分からない。念のためにカカシは靴を履いたまま、巻物を部屋の真ん中に広げた。

「やっと先生を迎えに行くのか?」
「ああ、あとは頼んだよ」

任せてくれ!と胸を張るナルトにカカシは笑いかけた。

「……あのな、万が一俺が戻って来れなかったら」
「縁起でもねーこと言うなってばよ」
「……そうだな」
「名前先生可愛いから、彼氏出来てても俺が慰めてあげるってばよ!」
「お前こそ、縁起でもないこと言うなよ」
「ハハハ」
「全く、調子が狂うね」

ひとしきり笑い合ってからカカシとナルトは目を合わせる。カカシが頷けば、ナルトも真剣な面持ちで頷いた。
印を組む手が今度は焦りと期待で滑りそうだ。カカシは、最後の印を組むと巻物に両手をついた。

音もなく消えたカカシ。

「先生……」

ナルトの小さな声は、誰にも聞こえなかった。
巻物を巻き直して大切にし舞い込んだ。

48時間以内にカカシが戻ってこなければ、ナルトが強制的にカカシを戻す役割を負うことになっていた。

しかし、カカシが無事に向こうで名前と会えているのなら戻って来なくてもいい気がしていた。名前の生まれた世界は向こうで、カカシが名前の為に戻らないことを選んだとしたらそれで良いと思うのだ。カカシは次期火影ではあるが、それよりもずっと前から名前と愛を約束した1人の男なのだから。
昔の自分だったらきっとそんなこと考えもしなかっただろう。名前はカカシと里に住むべきだと、そうとしか考えられなかったに違いない。

名前に再び会えるのではないかという期待と、もうカカシに会えないのではという不安。その二つを胸に抱えながら、ナルトは綱手の元へ戻る為にカカシの家を出た。

でも、ひとつだけ分かったことはある。
きっと、どちらに2人の結末が転んだとしても、良い報告がサスケには出来るだろう。



ー78ー

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