人形姫・08





「早くそれをしまえのぉ」
「すみません、待ちに待った新作でしたから」
「今回は取材が念入りだったからな」

イチャイチャタクティクスをポーチにしまい、カカシは御猪口に手を伸ばした。

「で、名前ちゃんは異世界へ帰ったのか」
「はい」

自来也は、クイッと手首を返し御猪口を空にした。

「それは寂しいのぉ。わしが背中を押したのもあるからな、デートの件は免じてやるかのぉ」
「覚えてたんですか」
「当たり前だ」

空になった自来也の御猪口に、カカシは静かに酒を注いだ。自来也は炙ったイカを奥歯で噛みながら、うんうんと唸った。

「しかしな、あいつが向こうの世界で生きておったとはのう」

あいつとは、時空間忍術の使い手であった忍のことだ。木ノ葉から名前の生まれた世界へ飛んだ忍。行方知らずになり、木ノ葉では死んだこととなっていた。しかし、名前が元の世界へ戻る1ヶ月ほど前に自来也から生きていたと情報が入ったのだ。

「あいつに名前ちゃんは会えたかも知れんな。あいつは人を放っておけん人格者だったからな」
「それにしても自来也様、何処でその情報を?」
「大蛇丸のカラになったアジトからだ。情報の資料と置いてかれた死にかけの手下から情報を抜き取らせて貰った。資料には、向こうの世界であいつに接触したことが書いてあっての、つい数年前のことだ」
「まさか、大蛇丸も時空間忍術を?」

大蛇丸も向こうの世界に行けるのなら、わざわざ名前を戻した意味がないではないではとカカシは焦りを露わにした。自来也は慌てるなとカカシを制し、また酒をイカと共に喉に流し込んだ。

「大蛇丸とて、簡単なことではない。大蛇丸は例の巻物を盗み出し複数所持していて、そのひとつを使ったようだ。巻物は三代目が、里抜けする前の大蛇丸のアジトを襲撃した時に全て没収した。お前が使ったのがそれだ」
「では、三代目は」
「きっと分かっておった。異世界のことも、戻り方も。ジジイの考えることは分からん。ただ、名前ちゃんの為に言った嘘だったのは間違いないだろうのぉ」

目の下を赤く染めて、自来也は美味そうに酒を進めた。カカシは、頬杖をつきながら体温でぬるくなってしまった冷やを舐める。
三代目は何故分かっていながら、わざわざ自分に調査をさせたりしたのだろう。ただの無駄足ではないか。

「それで、ナルトはどうする?」
「修行を続けます」

御猪口に残った酒を流し込む。また、空になる。酒の手は止まることを知らず、ふたりはいつの間にか下らない話に花を咲かせていた。

「しかし、大人になった名前ちゃんは見てみたかったのぉ」
「見れますよ」
「ん?」
「見れますよ。俺が迎えに行きますから」

自来也は面白そうに口角を片方だけ上げて、カカシの頭をクシャクシャに掻いた。

「あの生意気小僧が言うようになったのぉ」
「その生意気小僧も、もう30歳ですから」
「30歳なんてまだまだ小便臭いガキだのぉ。ナルトなんて毛も生えとらん」
「ハハ、そうですね」
「わしはまた暫く里を出る。雨隠れが不穏でのぉ」
「それは、任せて下さい」

残りの酒を飲み干すと、自来也とカカシは別れた。マスクを下ろしたまま、夜風が頬を撫ぜるのを感じていた。

「飲みすぎたかな」

名前が居たら、酒臭いと怒られるなとカカシは思い出して頬を緩めた。

「さて、俺も修行しなきゃね」

満月の夜に空を見上げる勇気は、カカシにはまだない。



ー73ー

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