人形姫・04


「行ってくるよ」
「お気をつけて」

名前にキスをして、夕方には戻るからと言ってカカシは任務に出て行った。カカシの背中が見えなくなると、名前は身支度を整えて家を出る。何度か訪れたことのある家、玄関をノックすると奥からバタバタと騒がしい足音が聞こえた。
 
「よ!」
「名前先生!?」
「もうすぐ任務復帰でしょう?お見舞い」

名前が訪ねたのは、ナルトの家だった。一昨日に退院して、今は自宅安静をしている。ナルトのことだから、カップラーメンばかり食べているだろうとカカシが心配するので、食事を作って届けてあげようと思ったのだ。

「ラーメンも良いけど、野菜もいっぱい食べてね」
「うわー!すげー!」

栄養を考えた料理が入った袋を、ナルトに渡す。ナルトは、照れ臭そうに鼻を擦り、ありがとと言った。感謝するなら、カカシ先生に言ってねと言った。

「先生は仕事か?」
「うん。本当はゆっくり、ナルトくんとご飯が食べたいんだけどね」
「そっか、残念だな」
「また今度ね。その時は、カカシ先生も一緒に!」
「うん!」

かつてナルトを励ますために、額にキスをしたことがある。それを思い出して、再びキスをしようと思ったが、ナルトの背がいつの間にか伸びているのに気付いてやめた。
それに、もう自分が励ますような子供ではないのだから。この子は充分強い、それを知っている。

「名前先生?」
「何でもなーいよ!」
「なんか名前先生、喋り方がカカシ先生そっくりだってばよ。うつっちまったか?」
「分かった?ちょっと真似してみたの」

先生は普通のしゃべり方のほうが可愛いってばよ、と言われ、名前はじゃあ今後は止めておくねと答えた。





「この任務、任せたよ」
「分かりました」

カカシは、綱手から依頼書を受け取る。前から言われてた通り、単独の簡単な任務だった。巻物を受け取り、それをポーチにしまった。

「それからな、カカシ」
「はい、綱手様」
「その任務が終わったら、明日から1週間休暇をやる」

カカシには意図が分からず、何か嫌な予感さえした。散々過酷な任務を恐ろしく詰め込んでいたくせに、突然簡単な任務だけ言い渡して、一週間の休みだなんて。

「名前にも、明日から休暇を与えるから二人でどっか出掛けてきな。既に調整済だ」
「は、はぁ」
「お前の為じゃない、可愛い名前の為だ」

綱手の顔を見て、カカシはあぁなるほど…と納得した。

「ま、そうですよねぇ」
「分かれば良いんだよ、分かれば」

シッシッと手で払われ、カカシは執務室から出て行った。

案の定、任務はあっという間に終わり、里に戻るだけ。帰り道、ふと足を止めたのは里から離れた温泉街。他国にも有名で豊富な湯量を誇る街だった。
木ノ葉も隠れ里の割には賑やかな街だが、やはり観光地として有名な場所は賑やかで雰囲気も情緒があって良い。

名前の顔が思い浮かぶ。カカシは、踵を返して街の中に足を踏み込んだ。





名前は、仕事帰り、日用品が減っていたことを思い出し、両手いっぱいに買い込んだ。玄関の前で、荷物を降ろさなければ鍵を開けられないことに気付く。右手の荷物だけ、地面に置こうとした瞬間、玄関が開けられてカカシが出迎えてくれた。
 
「おかーえり」
「わぁ!早いのね!」
「うん。俺に言えば、そんなに沢山買ってきたのに」
「カカシは、任務で大変だからいいんです」
「そう?いつも、ありがとう」
「どういたしまして」

名前が定時で帰るよりも早く、カカシが既に帰ってきていた。中忍試験以来、カカシが早く帰って来ているのは珍しく、嬉しくて名前はニヤけてしまう。

「名前、どーしたの?」
「え!?」
「ニヤニヤしてる」

名前は、上がっていた口角を咄嗟に隠した。

「あのね、私、明日から一週間もお休みになっちゃったの」
「えっと、俺もだよ」
「本当に!?嬉しい!」

顔を隠していたのも忘れて、名前はカカシに飛びついた。名前が力いっぱいぶつかっても、ビクともしない。力強いところも、本当に大好きだ。

「明日から、二人で温泉いこっか。前から旅行いこうって言ってたし。実は、任務帰りに宿取ってきたのよ」
「覚えててくれてたのね!ありがとう!」
「そりゃあ、もちろん。二人きりでゆっくりね」

名前は、やったー!と飛び跳ねて、自分の部屋に走っていってしまった。

「名前ー?」
「明日の準備してるの!今夜は早く寝ようね!」

ご飯は?と言えば、名前は忘れてた!とキッチンに走って行った。いつもはどちらかと言えば大人しい彼女が、感情のまま動き回っているのは初めて見る姿で新鮮だった。
名前の言う通り、カカシは普段よりも早く風呂に入り、2人は早めにベッドに入った。名前は、ベッドの中をゴロゴロする。

「落ち着いて……早く寝るんでしょ?」
「だって、楽しみなんだもん!里の外って、出たことも見たことないもの!」

嬉しそうな彼女の顔を見ているだけで十分だった。カカシは心から綱手に感謝する。まさか自分に、こんな平穏な幸せが来るなんて1年前に想像出来ただろうか。

「俺も楽しみだよ。だから、早く寝よ」
「はーい!」
「おやすみ」
「おやすみなさい!」





「起きてー!」
「……おはよ」

名前に上から乗っかられ、カカシは目を覚ました。目の前には準備ばっちりな名前。カカシは、アクビをひとつして、名前を自分の腕の中に引き込むと目を瞑った。

「起きてよー!」
「……。」
「カカシ?」

狸寝入りは得意だ。名前が覗き込んでいるのが気配で分かった。名前の指が、カカシの鼻をツンツンと突っつく。そのまま鼻筋の通った高い鼻のてっぺんを、キュッと上にあげた。

「ブタさん…ふふ」
「…フザケてる?」
「あ、起きてた」

目を開ければ、名前が楽しそうに笑っていた。なんか昨夜から子供みたいだな、と思いながらカカシは起き上がる。まぁ、まだ子供みたいなもんか。名前の世界では、大人として社会にでるまで成人を超えても学校に通う人々が多いらしい。教育にそれだけ時間を割けると言うことは、それだけ社会が成熟して平和な証拠なのだろう。
自分が名前の歳のころなんて、暗部で冷血のカカシと呼ばれていたなんて思い出す。

「さーて、飯食べたら行こっか」
「うん!」

簡単に朝食を済ませると、2人は荷物を持って家を出た。
この家に戻ってくるのは、4日後。こんなに家に帰らないなんて変な感じだと思いながら、浮足立つ足を抑えられずにいた。


ー32ー

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