人形姫・03


「名前先生!」
「ナルトくん!元気?」

ナルト達に依頼所で会うたびに、なんか逞しくなっている気がしていた。忍者学校時代の可愛い面影が薄れ、1人前の忍に近付いているみたいだ。でも、Dランクだと文句言うのがナルトらしくて、笑ってしまう。ナルトの文句に対して一理ある、という顔をしているサスケに名前は話しかける。

「サスケくんは、強いから早くレベルの高い任務したいんじゃない?」
「別に…。任務は任務だ」
「さすがサスケくん。偉いね」

子供扱いするな、と怒られた。
火影はヤレヤレとため息をつきながら、1枚の依頼書を取り出した。

「仕方ない、Cランクの任務をさせるか」

大喜びのナルトを尻目に、名前が依頼書に第七班と書き込むと、カカシに報告書を手渡す。波の国への任務。それほど長くないとはいえ、何日もカカシが家を空けるのは初めてだった。寂しくなるなぁと名前は、心の中で呟いた。

「気を付けて、帰って来て下さいね。カカシさん」
「だいじょーぶ。ありがとね」

カカシが、ニッコリと笑ってくれた。いつもの優しくて愛情深い笑顔。それだけで、名前は心から安心出来た。カカシがさり気なく、名前の手に触れ、愛しむように名前の手の甲を撫でた。この手に触れられるのは、大分先になる。名残惜しそうにカカシの手が離れていった。

「じゃ、各々準備して、里の門に集合ね」

4人の後ろ姿に名前は、密かにエールを送った。



里を出発して暫く。
サクラがニヤニヤしながら、カカシの顔を見ていた。こりゃ、何か無駄なことでも考えているなと思いながらも、無視せず話し掛ける。

「何?サクラ」
「名前先生とカカシ先生って、どう言う関係なのかなぁって」
「……」
「名前先生は、誰にでも優しくて笑顔だけど、カカシ先生への笑顔は他と違うのよね。普段の笑顔も可愛いんだけど、カカシ先生への笑顔はキラキラしてるってゆーか」

13歳とは言え、女の勘ってやつか。隠してる訳でもないけど、公表してる訳でもないけど、こんな簡単にバレちゃう何てね。案外、他の人も知ってたりして。

「大人をからかうんじゃないの」

きゃー!とサクラは確信ついた顔をしていた。まぁ、良いか。いつか奴等にはバレそうだしな。にしても、名前に会えないのは存外心許ない。
名前のご飯、名前の膝枕、名前の耳かき、名前のマッサージ。
暫くは抜きかぁと、カカシはバレない程度に溜息をついた。



カカシ達が出発して、1週間。
まだ1週間なのに、名前は寂しくて寂しくて仕方が無かった。寂しくないようにと、カカシから命令を受けたパックンが家に来てくれた。

「拙者は、子守はせんぞ」

と文句は言っていたが、散歩に行ったり、一緒に昼寝したり、アカデミーまで迎えに来てくれたり、結構面倒を見てくれた。
初めてパックンに会った時は、犬が喋るなんて信じられなくてロボットですか?と聞いたが、木ノ葉にロボットは居ないらしく、カカシには何を言っているのか解らないと言う顔をされた。
こんなワンちゃんも忍だなんて、この世界は凄いなと感動した。動物と話せるなんて、童話の世界みたいだから。

パックンが居るとはいえ、名前には、家で一人と言う状況をあまり経験した事がないことに今更気付く。
父がいた時は母は専業主婦だったし、父亡き後は弟と二人で留守番をしていた。家族が居なくなってからは、元芸者だった母の置屋にお世話になり、家には必ず誰かが居てくれていた。
木の葉に来てからは、カカシがいつも一緒に居てくれた。

でも、今は、そのカカシがいない。

「カカシさん……」

返事はない。

「会いたい」

名前の言葉は、部屋の静けさに吸い込まれた。パックンは、寝たフリをしながら切ない声に耳をかたむけた。



夢の中で、カカシは名前と眠っていた。
腕の中で名前はカカシに何度も何度もキスをしてくる。

「大胆だね」
「カカシ、好きよ」

口布越しのキスがもどかしい。
名前を体の下に組み敷いて、口布をさげ、口付けようとした瞬間。名前の顔が、見た事もないほど冷たくなる。

「気付け」
「名前?」

背筋が凍る。

「気付けよ」

冷や汗が垂れた。その瞬間目が覚める。

「ぎゃーーーー!!」

悲鳴をあげるナルトとサクラを余所に、カカシに不安が駆け巡る。

「マズイな……」

写輪眼の使い過ぎでカカシは床に伏せていた。1週間は体が動きそうにない。百地再不斬が現れた以上、ただの護衛任務じゃ済まない。もしかしたら奴は生きているかもしれない。その不安が拭えない。

ー帰るの遅くなるかも。名前。ー



カカシ達が波の国に立って、もう結構経つ。ナルト達は大丈夫だろうか。心配を掻き消すように、名前は黙々と働いていた。

「名前先生」
「あ、はい!」
「大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です」

考え事をしていたら、イルカ先生に心配されてしまった。
定時になるとパックンが来てくれて、二人は並んで帰る。パックンが先を歩いて、名前がちゃんと付いてきているか時々後ろを振り向いた。

「名前は、カカシと匂いが全く違うが、カカシに良く似ておる」
「そう?」
「どうしてかは分からないが、よく似てる」

パックンが言っている意味は分からないが、きっと良い事なんだろうと解釈した。他人からカカシのことを言われると、堪らなく会いたくなる。
この夜、カカシの香りが残る忍服を抱き締めて眠った。

ー18ー

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