人形姫・06


この街にあるものは、時々見たこともないものがあったが、ほぼ自分の住んでいた所と同じものばかりで安心した。  

これならすぐに生活に慣れそうだ。

生活用品を買うときはそばに居てくれたが、化粧品や服を見ている時は店の外で待っていた。入るのが恥ずかしいらしい。
手早く買い物を済ませると、名前はカカシの元に駆け寄る。

「カカシさんって、意外とシャイなんですね」
「…こんな可愛いお店でこんな本読めないでしょ?」

カカシは、先程まで開いていたイチャイチャパラダイスをパタンと閉める。大人が読む例の本。17歳の名前には覗けないセカイだったが、それでもカカシのジョークは分かった。

「ウフフ」

名前が笑うだけで、不思議とカカシは嬉しくなる。照れ臭くなって、カカシは頭をガリガリ掻くと、さり気なく名前の荷物を手に取った。

「悪いです」
「気にしないで、これぐらい」
「あら、優しいじゃないの」

美しい色香を醸し出す女性が話しかけてきた。

「今度は、紅か。」
「そんな顔するなんて、酷いわね」

ま、デート中だったから仕方ないか。と、紅はからかってきた。名前は、突然現れた紅に少し緊張しているようだ。2日連続でこいつらに会うなんて、なんかツイてないね。とカカシは溜息をついた。

「アスマから聞いたわよ。拾ったお人形ちゃんって、彼女?噂通り、本当に美しいわね」
「あ、あの、私名前です。苗字名前です」
「名前ちゃんね。私は紅よ、宜しくね」 

なんて美しい方なんだろう。名前は、幼さが売りである舞妓の自分にはない色気に惚れ惚れしてしまう。色気があって、それなのに何処か凛とした強さを感じる。こんな女性になりたいと思った。

「私は、火影様に頼まれてね。これ、届けに来たの。名前ちゃんのでしょ」

そう言って、紅は見覚えのある巾着袋を差し出した。

「まぁ、これ!私の!」
「やっぱり?名前ちゃんが落ちてきた所の花に埋もれてたのよ」

お財布、携帯、おやつの金平糖、その他色々、そのまま綺麗に残っていた。

「街に戻る時に必要でしょ?」
「え?あぁ、そうですね。ありがとうございます!」

満面の笑みの名前に、紅は満足そうだ。

「あ、それから、カカシ、ふたり一緒に1時間後、執務室へ行くこと」
「三代目?」
「なんか、報告があるみたいよ」

紅は、手の平をヒラヒラさせると煙と共に消えた。名前は、ビックリして目玉が飛び出しそうなほどに目を見開いていた。

「き、消えちゃった……!?」

目をパチパチさせる名前。 

「ただの瞬身だよ。とりあえず、荷物を家に置いて、火影様の所へ行こっか」
「あ、はい!」



火影執務室へ向かうと、三代目が沢山の書類を手に待っていた。

「突然呼び出して悪かったな。もちろんだが、名前さんについての話だ」

名前とカカシは生唾を飲み込む。思ったよりも早い報告だった。見つけたのだとしたら、買い込んだものも無駄になってしまうなんてと思った。

「私、戻れるんですか?」
「残念ながら、世界中探しても、名前さんの街は見つからなかった」
「そんな……」

気を失っているうちに戦争でもあって、消えてしまったの?いや、そうだとしても小さくも大きな日本が無くなってしまうなんて有り得るのか。信じたくないような、信じざるを得ないような。

「そこで、信じられない仮定だが」

三代目は、巻物を開く。

「もしかしたら、名前さんは違う世界から来たのかもしれん」
「は?」

カカシは信じ難いという顔をしていたが、名前は妙に納得する。だって、この世界はあまりにも自分の知る世界と違いすぎるから。

「これは、過去にあの森に迷い込んできた人間のリストだ。名前、年齢、迷い込んできたきた日付、やってきた地名が書かれている。これに、ほら」

三代目は、ある文字を指差す。

「え?」

それは、名前が住んでいた地名だった。
それにここも。と、いくつも指差す。よく見ると、近くの地名まで散見する。

「数名が同じ場所から来ている」
「だからって、戻る方法が見つかった訳じゃないと」
「そうじゃ。しかし、一人だけ木の葉に現れ、元の場所に戻り、再び木の葉に戻ってきた人間がいる。幸い、彼女は現在里で定住している」
「え?」
「そやつから話を聞いて、名前の帰宅を試してみよう。」
「……………」

カカシは、なぜか胸がキリキリと痛むのを感じた。

「とは言っても、彼女の都合が明日以降しかつかん。カカシ、明日彼女の元へ行ってくれ。明日、名前さんには紅をつける」

ちなみに何じゃが、と三代目が付け足す。

「名前の存在は、わしと紅、アスマ、カカシの秘密裏でやっていく。他の里のものには、名前がソトから来たことを言わないように」
「分かってますよ。俺達だって説明仕様がない」
「それもそうじゃな」

話が終わり、2人は帰宅する。
名前が、ご飯作りますねとエプロンを巻くと、出際良くご飯を作り始めた。カカシは、買い揃えたものを片付けて行く。思ったよりも早く名前は、目の前からいなくなってしまうかもしれない。なぜか、それが良い報告とはおもえなかった。どうしてかと聞かれれば、折角色々買ったのに勿体無いからと結論付けることにした。

ー7ー

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