人形姫・02


「へっクシ」

久しぶりの休日に、1人修行を行うカカシ。

花畑が広がる山奥の秘密の場所で、癒しと修行を兼ねて瞑想をしていた。何時間も続けていたのに、ふと運ばれてきた花の香りでクシャミをしてしまった。

まだまだだな。

再び精神の世界へ向かおうとすると、また芳しい花の香りがカカシの頬を撫でた。

しかも、今度は花自体が上からパラパラと降ってきた。

「ん?」

天を仰ぎ見ると、ふわふわと花々に囲われて、まるで重力なんて無視した動きで降りてきていた何か。人の大きさぐらいはあるだろうか。

ただその美しい光景が不思議で、なんの迷いもなく立ち上がって、その何かをカカシは受け止める。

それは、美しい人形のような女の子だった。

白粉で塗られた純白の肌、紅く艷やかな唇と目元。余りにも整った顔立ち。細くて華奢な体は、ガラスのように繊細なものに感じられた。さっき鼻を擽った香りは、この人形から発せられているものだった。
初めて見る美しい女の子に、これはやっぱり人形なんじゃないかと思った。ひとまず綺麗な着物が少しでもよごれないよう、自分の忍者ベストを敷いて寝かせる。

彼女は何者なのだろう。

とりあえず意識もないし、火影のところへ行くべきなのか。
彼女はどうして空から降ってきたのか。一般人にはできないあの光景、やはり彼女も忍なのだろうか。しかし、木の葉の一般人よりもチャクラを感じない。というより、チャクラがない。

チャクラがない人間なんて存在するのだろうか。
訳の分からない状況に、様々な考えを巡らせていると、お人形は目を覚ます。

「あ、起きた」
「あら、うち」
「大丈夫?」

女の子は、カカシの声が聞こえてないようだ。上半身をヨロヨロと起こすと、周りをぐるりと眺める。
周りは鬱蒼とした森、花街の片鱗もない。鳥の声が静かに響く。とんでもない所にきてしまった気がした。
やっぱり天国にきてしまったかもしれない。
どこかに見覚えのある場所はないかと、辺りをキョロキョロしていると、銀髪の青年が目の前にいるのに気付いた。

「まぁ」
 
びっくりして間抜けな声をあげる。

「えーと、君は何者?」

見るからに怪しい男の風貌に、花風は少し戸惑いながらも口を開いた。

「花風と申します」
「花風ちゃんね」
「これは芸名ですが」
「芸名?何かやってるの」
「見ての通り、舞妓をしております」
「舞妓?聞いた事ないな」

日本人なのに舞妓を知らないなんて、と驚きつつも、ここは天国だから仕方ないかと勝手に納得した。

「あなたは、天国の番人さんかしら?」
「天国?ここは天国じゃない。木の葉の里の森の中だ。」

木の葉?聞いたこともない地名。里、というから公園やテーマパークかなにかなのだろうか。

「あら、私死んでないの?」
「生きてるよ。死ぬと思うほどの何かあった訳?」

仕事に向かう途中で、何かに引っ張られ川に落ちたこと。川にどんどん沈んでしまうから、溺死するんだと思ったこと。頭の中にそれらがフラッシュバックする。

でも現に生きているし、あれは何だったのかしら。あの時の妙な現実感が一気に薄まる。もしかして夢かもしれない。花風は、思い切ってほっぺをつねってみたが、ビックリする位痛かった。
カカシは、その様子を見て相当彼女は混乱しており、幻術にでも掛けられたのではないかと思った。

「ちょっとごめんね」
「ひゃっ!」

カカシが花風の顎をクイッと掴み、顔を覗き込む。
幻術を解こうと瞳を覗いたが、彼女の瞳は普通だった。単純にパニクってるだけなのか。

「体は大丈夫?送ってやるから、どこから来たのか教えてくれ」
「ありがとうございます。体は大丈夫なので、置屋に戻ります」

花風は、置屋の住所を伝える。
しかし、カカシは首を傾げた。

「そんな地名、この国にも隣国にもないよ」

花風は、日本国内でも、世界的にも有名な地名を知らないなんて、なんて物知らずなのだろう。と、単純に思った。もしかして、知らないフリでもしているのだろうか。

「俺じゃ手に負えなさそうだし、火影様のところへ行こっか」
「すみません。火影様って何でしょうか?」

火影を知らないなんて、今までどんな生活を、このお人形はしてきたんだろう。カカシは、世間知らずの彼女に驚いた。もしかしたら、どこかのお姫様で大事に育てられて来たのかもしれない。

「知らないの?うちの里で1番偉いお方だよ。まぁ、何か知ってるでしょ。ちょっと走るから、これ被っておいて」

カカシは、ひらひらとした着物を纏めるためにベストと地面に敷いていた黒い布を着物に巻く。
カカシは、花風の体をひょいっと持ち上げると、物凄いスピードで走り始めた。
周りの景色が残像でしか見る事ができない。車に乗ってるのより速い気がする。この青年は一体何者なのか。こんな現実離れしたこと、やっぱり夢な気がしてきた。

「大丈夫?」
「大丈夫です……」
「よく掴まってね」

青年にぎゅっとさらに強く抱きしめられると、さらに速いスピードで走り始めた。怖くて花風は、ギュッと目をつぶった。
胸に埋められる、お人形の顔。怖いのだろうか、子供みたいにギュッと目をつぶっている。

無意識に可愛いと感じてしまった。
普段、女に対しては何も思わないのに。

これは、このお人形が美しすぎるからだと結論付けた。

ー3ー

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