ゲーノージン
2018/06/11 06:05

 まじかよ。第一線で活躍する先輩アイドル達が未成年との不祥事で取り沙汰されているのをテレビの報道で知り絶望した。
 もうあれだな、ほんと、良く知らないやつと酒は飲むべきじゃあないな。

「ショウ、お酒溢れてるよ」
「んんん……ふあ、ん、」
 世界がぐるぐるして楽しい。
 小学生の時からの友達、陽太と酒を飲んでへろへろになる。
 陽太がオレの唇を指で拭った。溢れたって言われたそばからまた酒を煽り、ぼたぼたと垂れ落ちていくのを感じた。
「ん、あちゅ、あちゅい……」
 顎から喉を滴り落ちる酒の跡を指でなぞる。なんだかそこが熱くて痒く感じた。アルコールのせいで体温も高い。身体がぶよぶよの膜に覆われたみたいで掻き毟ると、陽太がオレの手を掴む。
「ダメだろ、アイドルなのに傷がつくぞ」
「んん、やあ……」
 腕が頭の後ろに一纏めに拘束され、ソファーに押し倒される。酔っ払っているから、振り払おうとしたって右手一本で制されてしまう。
 陽太の空いた方の手が首筋を撫でた。冷たくて気持ちよくてぶるりと震えた。陽太はそのままぺろぺろと首筋を舐め始める。
「んん、あっ、あ、や、やら」
 くすぐったくてもどかしい。跡が付かない程度に吸い付かれ、優しすぎる刺激に首を振った。
「はは、かわいそ、酒飲みすぎて勃起も出来ない?」
「あっん、」
 ズボンの上から股間を優しく握られる。思わずびくんと身体が跳ねた。半勃ちのそこは確かに、それ以上硬くなりそうにもない。
「よ、た、よーた、ちんぽやだあ、おねがい」
「おねがいってなに? もっとしてほしいの?」
「ちがう、あっ、あっあ」
 ズボンとパンツが適当に下され、半勃ちの性器が露わになる。外気に晒されてキュンと縮こまると、陽太はそこにもキスをした。
「やだ、あっ、もれ、ちゃうっんんん」
「小便? 漏れちゃうの? いいよ、ちょっと待って」
 ひんひん声を上げて訴えると、陽太はオレの上から退いた。トイレに行かせてもらえるのかと思ったら、そうじゃなかった。
「いいよ、小便そこでして」
「やだ、しない、なんで、なんで」
 うろたえて首を振り、ソファーから降りようとすると、陽太の手が首元を掴んで抑えた。ヒッ、と息が詰まる。
 陽太はハンディーカメラを手に持って、オレを撮影していた。
「可愛いファンに囲まれて、歌って踊れるアイドル様のショウくんが、今からお漏らしします。ね? ほら、していいよ」
「やだっ、やめろ、止めて」
「ショウ、キスしてあげる。酔っ払うと甘えたで泣き虫になるショウくんはキスされんの好きだもんな」
「知らな、う、んん」
 陽太が覆いかぶさってキスされる。陽太の舌が舌の付け根を撫でて、絡んで、噛まれて、頭はぼーっとしてしまう。
「ショウ? 俺のキス気持ちいい?」
「ん、あ、あ」
 唇が離れると、とろりと唾液が糸を引いた。もう熱が名残惜しくなる。
「ちょっと待って。うん、いいよ」
 陽太はカメラをソファーの肘掛に置き、オレの後ろに回った。身体を起こしたオレの顔を横に向けさせ、またキスしてくる。
 ちゅくちゅくと音を立ててキスする一方で、股間を撫でられた。敏感な先端を指の腹でこすられ、びくびくと身体が跳ねる。
「ひぎっ」
 小さな穴に爪を立てられ、痛みに小便をちびる。
 そこからはなし崩しに、放尿してしまう。酒をたくさん飲んだのもあって、長く長く続いた。
 半分泣きながらキスしているから、すごくしょっぱかった。


 ガンガンと痛む頭に、目覚めは最悪だった。柔らかいベッドに窓から陽光が差し込む。二日酔いさえしていなければ、小鳥がさえずるさわやかな目覚めだったのに。
 いつのまに着替えたのか、陽太の家に置いてあるオレのシャツとトランクスをはいていた。オレが持ち寄ったものではなく、頻繁に泊まるオレのために陽太が用意したものだけれど。
「あたまいたい……」
 こんな朝は、陽太がシジミの味噌汁を作っていた。絶妙な塩加減と、味噌の匂いがちょうど良い味噌汁だ。
 オレはそれを期待してリビングの扉を開けて、息を飲んだ。
 部屋が薄暗いのはカーテンを閉めて電気を消しているからだ。
 部屋中に響く音は音質が悪く、最初はよくわからなかった。
 顔が引きつったのは、壁一面に映し出された映像のせい。
 ソファーの上で大股を開いて陽太とキスをしながら、とめどなく放尿している自分の姿。
 それを、該当のソファーに座って眺める陽太の後ろ姿が目に入る。
 気づかれないようそっと近付き覗き込むと、右手でソファーを撫で、左手でシコシコと忙しそうにしている。
 なんと言葉をかけたらいいのか、言葉を失ったオレは呆然と立ち尽くした。
 気付いていない陽太は上ずった声を上げた。
「ショウ……ショウ……っく、」
 バコンッ!
「いいってえ?!!」
 何故だか凄く腹が立って、そこにあった煎餅の入っていた銀の缶で陽太の頭をぶん殴る。
「この……くそ変態野郎! ばか! 馬鹿!!!」
 ばこばこと叩くと、缶がひしゃげていった。痛い痛いと言う陽太がしばらくしてようやくオレの手を掴んだ頃には、缶の蓋が凹んで外れて閉まらなくなっていた。
「なんでっなんでこんなもん……おまえ、これどうするつもりだよ!?」
 まさか週刊誌にこのデータ送るとか脅すつもりなのか?せっかく最近ようやく軌道に乗ってきて、ツアーだってこの夏に始まるっていうのに。それなのに!
「安心しろって、大丈夫だから」
「うあっ」
 無理やり引っ張られてソファーに座らされる。なにが大丈夫なのか知らないが、壁の中のオレはようやく放尿を終え、意識を失うように眠っていて、動画はそこで止まっていた。
「消せよ、こんなもん、今すぐ」
「落ち着けって、どこにも出すつもりないし。いいだろ、恋人にしてくれとか言うわけじゃないし」
「じゃあいいよ、とか言うわけないだろ……?」
 話の通じなさに頭を抱えていると、陽太は脇に置いてあったカメラを手に取り操作しだした。消してくれるのか?なんて一瞬期待したオレはとんだノーテンキ野郎だ。
「それにいいだろ、今更、これくらい」
「これくらいって……え……」
 再び壁に映像が映し出される。さっきとはどこか違うけど、オレは酔っ払っていて、ズボンとパンツを半分下ろし、性器を握っている。
『あ、あー、あー、きもちい、きもちいよ』
『ショウ、これ使いなよ』
『なあに?』
『オナホ。新品だから』
『ん、ん、』
 全く記憶にない映像だった。しかも、着ている服が違うから明らかに違う日に撮ったのが伺える。
「なん……だよ、これ……」
 映像の中で気持ちよく喘いでるオレは早送りされ、また違う服装になっていた。今度は、陽太が後ろからオレを抱きしめ、性器の先端に棒を差し込もうとしている。
「毎回全然覚えてないんだよな。でも、だから証明になるだろ、俺がこれを他の誰にも見せるつもり無いって」
「……い、いつから、いつからこんなの」
「いつからって、そんなの。成人式の時に一緒に初めて酒飲んだろ? あの時から毎回、飲むたびに」
「……」
 オレは絶望した。陽太の変態趣味にじゃない。
 毎回こんな目にあっても記憶を失っている、自分の酒癖の悪さに。
 こんな事実目の当たりにしたら誰だって言うだろう。
「……だめだこりゃ」

終わり


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