第3話
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「こ‥‥子供?」


思わずお腹に手を当てたけれど
もちろんそこはペチャンコだ。


「なんで子供?」


妊娠などしていない事は自分が一番知っている。
なのに……


「そりゃーこんだけヤってりゃそのうち出来てもおかしくねえだろ」

「‥‥それは船長が、気をつけてくれれば澄むことで‥‥」

「それはできねー相談だ」


間髪入れずにそう言って、リュウガはニヤリと笑いかける。
しかし●●●は合わせていた目をスッと伏せた。
顔を見られないよう、ぎゅ、と胸にしがみつく。

確かにリュウガは避妊に関して協力的とは、いえない。
実際今も足の付け根からは熱いものが流れている。
だから、月のモノが近づくたびにヒヤヒヤしてるのが現状だ。

もちろん彼の子供は欲しい。欲しいけど…



「そういう顔をするから決めとこうって言ってんだ」


呆れたような声と同時に、背中を優しく撫でられた。


「お前の事だ。ガキができたら独りで抱え込むんだろうよ」
「……!」


図星だ。
もしお腹に子供が出来たら誰にも言えず、ウジウジ独りで悩むと思う。


「‥‥で。あげくオレに迷惑かけたくねーとか言って、ふらりとどこかに消えて貰ってもかなわねーしな?」


リュウガは口を歪めて笑う。
●●●は「う」と言葉に詰まった。

(全部読まれてるーー)

そんな選択肢も正直言って考えていた。

自由を愛するリュウガにとって子供の存在は足枷になる。
彼に迷惑は掛けたくない。
子供には父親が誰よりも、気高い人よと胸を張って言えばいい。
だから、もし子供が出来たら、ひとりで子供を育てて…
そんな事も考えていた。

でも……

●●●は思い切って、聞きたかった事を聞いてみた。



「船長は子供‥‥欲しいの?」


尻すぼみの声。
やっと口にした問いかけに、間髪入れずに返事があった。


「今すぐ欲しいかと聞かれりゃ、そうでもねえが」
「やっぱり……」
「‥‥お前のガキならな?」
「……え?」


リュウガの指が、垂れる髪を耳にかける。
優しい指先。
●●●は「そっか」と目を伏せた。

ホントは今すぐ、飛び上がって喜びたい。
好きな人に子供が出来たら産んでもいいと言われたのだから…
でも、気になる事がもう1つ。


「じゃ‥じゃあ‥ね?」
「ん?」
「もしお腹に赤ちゃんができたら‥(わたしは……)」


言いかけ●●●は言葉に詰まった。
返事を聞くのが怖いから。
けど、あっさりリュウガは質問の続きを予測して、それに答えた。


「ガキができたらお前には船を降りて貰う」
「‥‥‥っ!‥や、っぱり‥」


予測どおりの返答に、身体がガタガタ震えてくる。
身体の向きをゴロリと変えて、背中を丸めて縮こまった。


「……おい」


じわりと涙が滲んでくる。
そんな身体を、リュウガはうしろから抱き締めた。


「おれも降ろしたかねえ、降ろしたかねえが‥‥腹に出来るのはおれの子だ」
「うん」
「それにここは海賊船だ、何があるかわかんねえ」
「うん」
「ソウシが居るにしろ、何かあったら海の上じゃ、どうすることもできねえしな」
「う…ん」


そんな事は分かってる。
だけど、涙がポタポタ溢れてくる。

きっとリュウガのこと……
子供が出来たら陸に下ろして、年に数回。
有り余るほどの金貨を置いて、子供を育てろと言うだろう。
けど‥そんな事は望んでない。
お金なんて要らない。
だったらひとりで子供を育てて…


「つっても‥‥お前をひとりにするつもりはねえ」


「え?」と●●●は振り向いた。
リュウガの顔が溜まった涙で滲んでいる。


「ひとりじゃ‥ない?」
「ああそうだ」


リュウガの、太くてカサつく親指が目尻の涙を拭い去った。


「そん時はそうだな。ハヤテとトワを交代で。もちろんソウシはお前のそばに置いとくつもりだ」
「……うそ?」
「もちろん俺も、遠出をするつもりはねーから、やることやったらお前のそばにできる限り居るつもりだ」


うう…と口から嗚咽が漏れた。
●●●は顔を両手で覆う。


「じゃあ‥ひとりぼっちにならなくていいのね?」
「もちろんだ」


太くて逞しい両腕が優しく身体を包み込む。


「だから‥‥ガキができたらすぐに言え」


●●●は寄り添う胸で何度もコクコクと頷いた。
嬉しすぎて溢れる涙が止まらない。


「こうみえて、おれも色々準備してんだぜ?」

「−−?準備?」


顔を上げるとリュウガはマズイと顔を顰めた。
「これ以上は言えねな」と降参のポーズで諸手を挙げる。


「ねえ…準備ってなあに?」


●●●は指で涙を拭った。


「だからそれは、出来た時のお楽しみだ」
「お楽しみって‥‥教えてくれてもいいじゃない」


●●●が詰め寄ったその瞬間。ぐるんと景色が変わっていた。
リュウガの向こうに天井が見える。


「たく。…そんなに知りてえならもう1回、ガキ仕込むか?」
「‥‥へ?」


見下ろすリュウガがニヤリと笑う。
その時からだの奥のほうから、じわりと何かが流れ出た。
咄嗟に●●●は手を入れる。
シーツの中から出てきた手には、赤いものがついていた。


「きゃ!大変!」


リュウガの身体を突飛ばし、くしゃくしゃのシーツを手繰り寄せて、ベッドの中から飛び出した。
床に散らばる下着を拾い、クローゼットをガサガサ漁る。
リュウガはチッと舌打ちをした。


「なんだ、お月さんかよ…」


その様子を眺めるリュウガは、まいったなァと頭を掻いた。




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