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「こ‥‥子供?」
思わずお腹に手を当てたけれど
もちろんそこはペチャンコだ。
「なんで子供?」
妊娠などしていない事は自分が一番知っている。
なのに……
「そりゃーこんだけヤってりゃそのうち出来てもおかしくねえだろ」
「‥‥それは船長が、気をつけてくれれば澄むことで‥‥」
「それはできねー相談だ」
間髪入れずにそう言って、リュウガはニヤリと笑いかける。
しかし●●●は合わせていた目をスッと伏せた。
顔を見られないよう、ぎゅ、と胸にしがみつく。
確かにリュウガは避妊に関して協力的とは、いえない。
実際今も足の付け根からは熱いものが流れている。
だから、月のモノが近づくたびにヒヤヒヤしてるのが現状だ。
もちろん彼の子供は欲しい。欲しいけど…
「そういう顔をするから決めとこうって言ってんだ」
呆れたような声と同時に、背中を優しく撫でられた。
「お前の事だ。ガキができたら独りで抱え込むんだろうよ」
「……!」
図星だ。
もしお腹に子供が出来たら誰にも言えず、ウジウジ独りで悩むと思う。
「‥‥で。あげくオレに迷惑かけたくねーとか言って、ふらりとどこかに消えて貰ってもかなわねーしな?」
リュウガは口を歪めて笑う。
●●●は「う」と言葉に詰まった。
(全部読まれてるーー)
そんな選択肢も正直言って考えていた。
自由を愛するリュウガにとって子供の存在は足枷になる。
彼に迷惑は掛けたくない。
子供には父親が誰よりも、気高い人よと胸を張って言えばいい。
だから、もし子供が出来たら、ひとりで子供を育てて…
そんな事も考えていた。
でも……
●●●は思い切って、聞きたかった事を聞いてみた。
「船長は子供‥‥欲しいの?」
尻すぼみの声。
やっと口にした問いかけに、間髪入れずに返事があった。
「今すぐ欲しいかと聞かれりゃ、そうでもねえが」
「やっぱり……」
「‥‥お前のガキならな?」
「……え?」
リュウガの指が、垂れる髪を耳にかける。
優しい指先。
●●●は「そっか」と目を伏せた。
ホントは今すぐ、飛び上がって喜びたい。
好きな人に子供が出来たら産んでもいいと言われたのだから…
でも、気になる事がもう1つ。
「じゃ‥じゃあ‥ね?」
「ん?」
「もしお腹に赤ちゃんができたら‥(わたしは……)」
言いかけ●●●は言葉に詰まった。
返事を聞くのが怖いから。
けど、あっさりリュウガは質問の続きを予測して、それに答えた。
「ガキができたらお前には船を降りて貰う」
「‥‥‥っ!‥や、っぱり‥」
予測どおりの返答に、身体がガタガタ震えてくる。
身体の向きをゴロリと変えて、背中を丸めて縮こまった。
「……おい」
じわりと涙が滲んでくる。
そんな身体を、リュウガはうしろから抱き締めた。
「おれも降ろしたかねえ、降ろしたかねえが‥‥腹に出来るのはおれの子だ」
「うん」
「それにここは海賊船だ、何があるかわかんねえ」
「うん」
「ソウシが居るにしろ、何かあったら海の上じゃ、どうすることもできねえしな」
「う…ん」
そんな事は分かってる。
だけど、涙がポタポタ溢れてくる。
きっとリュウガのこと……
子供が出来たら陸に下ろして、年に数回。
有り余るほどの金貨を置いて、子供を育てろと言うだろう。
けど‥そんな事は望んでない。
お金なんて要らない。
だったらひとりで子供を育てて…
「つっても‥‥お前をひとりにするつもりはねえ」
「え?」と●●●は振り向いた。
リュウガの顔が溜まった涙で滲んでいる。
「ひとりじゃ‥ない?」
「ああそうだ」
リュウガの、太くてカサつく親指が目尻の涙を拭い去った。
「そん時はそうだな。ハヤテとトワを交代で。もちろんソウシはお前のそばに置いとくつもりだ」
「……うそ?」
「もちろん俺も、遠出をするつもりはねーから、やることやったらお前のそばにできる限り居るつもりだ」
うう…と口から嗚咽が漏れた。
●●●は顔を両手で覆う。
「じゃあ‥ひとりぼっちにならなくていいのね?」
「もちろんだ」
太くて逞しい両腕が優しく身体を包み込む。
「だから‥‥ガキができたらすぐに言え」
●●●は寄り添う胸で何度もコクコクと頷いた。
嬉しすぎて溢れる涙が止まらない。
「こうみえて、おれも色々準備してんだぜ?」
「−−?準備?」
顔を上げるとリュウガはマズイと顔を顰めた。
「これ以上は言えねな」と降参のポーズで諸手を挙げる。
「ねえ…準備ってなあに?」
●●●は指で涙を拭った。
「だからそれは、出来た時のお楽しみだ」
「お楽しみって‥‥教えてくれてもいいじゃない」
●●●が詰め寄ったその瞬間。ぐるんと景色が変わっていた。
リュウガの向こうに天井が見える。
「たく。…そんなに知りてえならもう1回、ガキ仕込むか?」
「‥‥へ?」
見下ろすリュウガがニヤリと笑う。
その時からだの奥のほうから、じわりと何かが流れ出た。
咄嗟に●●●は手を入れる。
シーツの中から出てきた手には、赤いものがついていた。
「きゃ!大変!」
リュウガの身体を突飛ばし、くしゃくしゃのシーツを手繰り寄せて、ベッドの中から飛び出した。
床に散らばる下着を拾い、クローゼットをガサガサ漁る。
リュウガはチッと舌打ちをした。
「なんだ、お月さんかよ…」
その様子を眺めるリュウガは、まいったなァと頭を掻いた。
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