第2話
(……誰だ?…んな時間に…)
床の遥か下のほう。
そこから聞こえたほんの微かな足音で、不意にオレは目を開けた。
その視界におさまったのは、すでに明るくなった窓。
時刻はそうだな。
午前5時といったところか。
「―――。」
しかしそれは二の次だ。
情事のあとの気だるい身体は、動く気にはまったくならねェ。
隣で眠る●●●の身体をたぐり寄せるように抱き締め直すと
二度寝をするべく。
目蓋をおれはゆったり閉じた。
窓の外からは、船腹を叩くさざなみの音。
それが、上下に船を揺らしている。
揺りかごのような感覚に、まどろむ意識が眠りに落ちるその瞬間。
どういうわけか、急激にフッと浮上した。
パチリ。
そんな擬音がするほどに、目はどういうわけか冴えわたっている。
(まさかまさかそんなワケ…)
身体の力をすぅぅっと抜いて、再度おれは目蓋を閉じた。
パチリ。
―― けどダメだ。
頭までもがすっかり冴えて、眠れる気すら、まったくしねェ。
いわゆるこれは、寝るタイミングを逃したってヤツだろうか?
は……っと息を吐き出して、寝癖のついた頭を掻く。
それから目だけで部屋の中を見渡した。
「……んー…」
起きて行くにはまだ早ェし、起きる気力はまったくねェ。
読みかけの本が視界に入るが。
それを読む気は…さらさらねェ。
ならばと視界に収まったのが、酒の詰まるキャビネット。
1杯だけ……
そう思って、起きようとして。
やっぱりやめた。
代わりに視線を下に落とす。
そこには俺同様。
ハダカのままで眠る●●●が、すぅすぅと可愛い寝息をたてて眠っている。
おれの胸に顔を寄せ、あまりに無防備なその顔に
ふと、イタズラ心に火がついた。
ふにふに
かわいい尻をつまんでみても、起きるどころか、起きる気配すら見せねーから
鼻から浅く息を吐く。
「つまらんな」
こういう事は、気づかれなきゃ意味がねえ。
「船長のエッチ!」とか言って、可愛いほっぺを膨らませてくれりゃァ、虐め甲斐もあるんだが。
起きねーのなら意味がねえ。
そもそもコイツの目覚めの悪さの原因が、おれにあるから世話がねえ。
それはさっきの、アレの最中 ――
「もういやっ!…船長、こっちにこないで!」
舌と指での、愛撫の最中。
ベットの隅に逃げた●●●。
何度もイって震える身体で、おれの顔を睨(ねめ)つける。
けど、そんなカワイイ顔を見た俺が、やめてやれる筈もなく。
その手を掴んで引き倒し、上に跨ったのは言うまでもねェ。
それから自身で、じっくり攻めて…
最後はぐったりしてたよなァ…
は……と短く嘆息する。
コイツの前では抑えがきかねー。
それは今日に限らず、かれこれもう1週間。
月のものが終わって以来。毎晩こうして抱いているわけだから
寝不足なのは、当然で…
「起こすわけにもいかねーか…」
参ったなァと、自分の頬をボリボリ掻いた。
そうこうするうち足音が、3階の階段に掛かるのが分かる。
しかし、敵襲だ、とも、慌てる様子もないそれは、緊急の何かではないだろう。
「……さて」
起きることはないと思うが
それでもこの眠り姫を、無機質なノック音で起こすのは忍びない。
「……ゆっくり寝てろ…」
ちゅ、と首筋にキスをして、ついでに耳を甘噛みする。
「……んぅー…」
●●●はくすぐったそうに肩をすくめ、きゅ、と小さく丸まった。
それを見届け、するっとシーツから滑り出るとズボンだけを履き
静かにドアを押し開けた。
※
[
prev next ]