第3話






「おう…」

ドアと開けるとノックをしようとしたらしいシンが、右手を上げて立っていた。

いきなり開いたからだろう。僅かに隻眼を瞠っている。


「船長…起きてたんですか?」

シンは腕を下ろしながら、オレの背後をすっと見た。
そこにはベットが丁度あり。
ハダカの●●●が、まだ寝ている。


「まァ、たまたまな、」

ほんの少し身体をずらして、ドアの端に両手をつく。

「…それよりどうした?」

オレに視界を遮られ、それでも済ました顔で向き直るシンは
手にある海図と双眼鏡を、おれの前に差し出した。


「実は…島が見えまして」

差し出されたそれを、受け取る。

「ほう……島か?」
「ええ。たいした島ではありませんが、念のため。知らせておこうかと…」

おれとシンととの静かな攻防はそこで終わり
俺は、手元の海図に視線を落とした。
しかし。
隅から隅まで眺めてみても、手にある海図は真っ白で
島の印はどこにもない。

つまり


「海図にも載ってねえ、島…ってことか?」

珍しいな、と、双眼鏡を覗いてみれば確かにそんな影がある。


「随分ちいせえ島だな…」
「ええ。…潮の加減で偶然近くを通ったので、気づきましたが……
ほんの少しズレれていたら、気づく事は無かったでしょう…」

シンも後ろを振り返り、島の辺りをじっと見る。

「……確かにな」



見えた島は、2、3時間で1周できるほどの、小さい島。
ひっそり佇むその島は、僅かな緑を真ん中にたたえ
それを白い砂浜が、ぐるっと回りを囲んでいる。


「このまま通り過ぎますか?」

問われて無意識に顎髭を撫でた。

「……そうさなァー…」

上陸の理由はもちろんない。
かといって、当面目指すお宝も取り急ぎ無い。

ふと、さっきの●●●が脳裏を過ぎった。

(アイツも疲れてるみてェーだし…)

それに――





「よし、……碇をおろせ、」

ある事を思い出して、手にある物を突き返す。

「と、いいますと…」
「上陸だ。たまにはビーチで、のんびりするのも悪くねーだろ」

シンはそれを受け取りながら、訝る顔で俺を見た。

「のんびり?……本気ですか?」
「ああ本気だ。こう暑くちゃ、かなわねーしな。今日の昼メシはあそこで食うぞ」

嬉々とするオレとは対照的に、シンの眉間にシワが寄る。
何か文句を言われる前に、素早くオレは畳み掛けた。


「…って事で、オレはこれからもう少し寝る。おまえも寝ろ」
「しかし…っ!」
「1日くらい、どーってことねーだろ?それに‥‥ゆうべは舵取りしてて。寝てねーんだろ?」

な?と肩に手を置くと、シンはやれやれと、聞こえよがしの溜め息。

「あと、…悪いがナギに昼メシの事、言っといてくれ」

頼んだぜ、と、口の端を歪めて笑うと諦めたのか
シンは了解ですと踵をかえした。

重い足取りで階段を下りていく背中を見送る。

それからツイと空を仰いで、上にぐ、と、伸びをした。


さて。

起きたらアイツは、どんな顔をするだろうな?

それよりあれは――

まあいい。どっかにあるだろう。

こみ上げる笑いを喉奥に押し込み、朝の空気を吸い込むおれは
この日この島に立ち寄ることで、あんな摩訶不思議なことが起きるとは
この時、予想だにもしていなかった。








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