第21話








帆が、いきなりの突風を受けた途端。シリウス号の船体が
グンッと異様な動きをした。

オレを含め甲板に居る野郎どもが、いっせいに前につんのめる。
砲弾を手に走るハヤテも、止まりきれず、つまづいて倒れた。



「いよいよ開くぞ、シン…」

しかし帆は、半分ほど開いたところで、それ以上、開く様子がねえ。
どうやら、激しく風に煽られるうち。
帆を纏めるロープが、どっかに絡んじまったらしい。
ソウシとトワが動かないロープを、必死になって解いている。
しかしその間も、しぶきを上げるシリウス号は波に翻弄されっぱなしだ。


「シン…!左舷だ。面舵、急げッッ!!」

オレの顔から笑みが消え、背後でシンが呻き声を上げる。
帆が半分しかまだ、開いてねえから
もちろんスピードは乗ってこねえ。
反面揺れは、さっきまでとは比じゃねえくらいに、上下左右と、激しく波打つ。

振り子のように振られるたびに、洪水のような勢いで、甲板から雨と海水が流れ出し。
想像以上に翻弄されるシリウス号は、湖面に浮かぶ、木の葉以下だ。

「お前ら全員、振り落とされるなァァァー!」

オレの怒声が響いた直後、再び船体が一気に横に傾いた。


「きゃああああー!」

その時。
甲板の真ん中まで走り出ていた●●●の身体が、飛ばされる勢いで濡れた甲板を滑っていく。

「●●●ッッ!!!」

誰もが叫んだ次の瞬間、振り返ったナギが、慌てて●●●に駆け寄った。

「大丈夫か?」

ナギの腕に抱き起こされ、●●●は顰めた顔で、へへ…と笑う。
そんな●●●に、どうやら怪我は無いようだ。

「わたしは大丈夫です。ナギさん、これを…」

●●●は胸に抱えた火薬の箱を、ナギの手に握らせた。

「……おまえ」

濡れないようにと、胸にしっかりと抱えた火薬。
それとは対象的に、ずぶ濡れの格好で微笑む●●●に、ナギが「…っ、」と息を呑む。
ナギの腕に支えられ、よろけながらも立ちあがった●●●は。
安心させるよう、今度はオレに、ニコッと笑った。


「ああ、よくやった」

オレも●●●に、微笑み返す。
しかし「戻って来い」と言うより先。
●●●は、くるっとおれに背を向けた。

「なに…っ!!」
「、待てッッ!!!」

呼び止める声にも振り向かず、船底に向け、駆け出す●●●。
追いかけるナギを阻むように、船が激しく左右に揺れる。
それと同時に、風に乗った砲弾の1発が、船べりの横を掠めて行った。

「アイツら…ッッ!」

こっちの攻撃が止まったせいでか、背後からの砲撃が、さっきより激しさを増している。
気づけば全ての砲門が開き、全砲身が火を吹いていた。

奴ら…。俺らの作戦に気づきやがったな。

逃げられる前に、総力戦をかける気か……


「ナギ、もういい!!」

追いかけるナギをすぐに制した。

「けど船長!!アイツ、何でまた、船底に…!」
「分からねえ。けど、アイツの事だ。何か、考えがあってのことだろう」


『火薬を渡したら戻ってきます』
さっきそう言って、駆け出した●●●。
それでも船底に戻るからには、ワケがあるに違いねえ。
それに――

「船底なら、海に落ちる心配もねえだろ。それより、こっちも砲撃を始めねえと、逃げ切る前に、沈められるぞ」
「……くっっ!」

ナギが不安げな顔で、走り去る●●●を見送る。
それでも向きを変え位置につくと、受け取った火薬で、ズドーン・ズドーンと砲撃を始めた。


「ナギ兄ィーー!」

そうこうするうち、●●●と入れ替わるようにして、ハヤテが船底から駆けて来た。
腕に抱えた、数発の砲弾。
そろそろ弾も十分だろう。


「ハヤテ!弾はもうイイ。ナギを手伝え!!」

もう、のんびりしてる暇はねェ。
ハヤテが了解と、ナギの隣に腰を下ろす。

「ところでハヤテ、●●●はどうしたッッ!!」

野郎たちが知りたいであろう問いかけに。
ハヤテは弾を渡しながら。しぶきで濡れる、顔を顰めた。


「それが…っ!…下で弾が暴れてて…」
「ああん?」
「この揺れで、砲弾の箱がひっくり返って、倉庫ン中を転がり回ってんだよ。…ほっとけ、って言ったんだけど……アイツ、船壁が破壊される、つって、今、箱に戻してんだ、」
「……。…そういう事か…」


オレは無言で船底に続く入り口を見た。

●●●の判断は、間違ってねえ…。
揺れはこれから、今以上に激しさを増す。
そのたびに重い鉄球が何度も壁にぶち当たりゃ……内側から船を、破壊しかねねえ。

振り返ったナギに、大きくおれは頷いて見せた。



「よぉーーし、ソウシ、トワッッ、もたもたするなァァ!」

船底の状況は理解した。
もちろん、アイツを独りにさせてんだ。不安が無いワケじゃねえ。
けど。今は逃げ切るのが先決だ。

未だ、天を仰いで手こずる2人に、オレは怒声を響かせた。


「ソウシ、揚げ綱を一旦引いて、帆のロープを緩めてみろッッ!!」

くしゃくしゃに丸まる開いてねえ帆が、降りしきる雨の中、バタバタと風に、激しく靡く。
2人は濡れるロープを引いて、少し帆を畳んでは、絶妙なタイミングでロープを緩める。
ナギはハヤテと合流したことで、砲撃の勢いを取り戻し。
シンは呻きながらも、傾く船を立て直す。

奴らの迅速な動きにより、帆が徐々に開き始め。
やがてサブマストの全ての帆が、風をはらんで大きく膨れた。


直後 ――。


メリメリという、船が2つに裂けるような音と。

想像を、はるかに超える大揺れが、シリウス号を襲った。





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