福寿草 | ナノ
第6話 








「…ちっ!」

カラダを起こして振り返れば、やっぱりだ。
ロイが、こちらに向かって歩いてくる。

めんどくせーなー

そう思うリュウガを尻目に、ロイはニヤ…っと笑んだ。


「やはりリュウガか、久しぶりだな」
「おー…まーな」

…と、普通に挨拶ができたのは、ここまでで――
彼の背後から顔を覗かせたSAKURAに気づいたロイは、一瞬呆然としたかと思うと、猛ダッシュで駆けてきた。


「お……おいリュウガ!!この女は誰だ???」
「は?」
「誰だと聞いているんだ!」

誰かと聞かれて、SAKURAと顔を見合わせる。
しかしロイは…至って真顔。
彼女の全身を舐めるように見たかと思うと、奥歯をギリギリと歯噛みした。


「SAKURAといい、この女といい。……なんで貴様にばかり…俺好みの女が寄ってくるんだ…っ!!!」
「おい、ロイ」

ぐぬぬぬ!と、歯を鳴らすロイには、リュウガの声など聞こえない。
かと思えば、

「…で、…SAKURAは船で留守番か?まあそうだろうな。…こんなオオカミの檻みてーなところに連れてくりゃー……可愛いウサギちゃんを、さあ食ってくれと言ってるようなもんだからな」

うんうんと腕を組んで、納得するロイ。
…と、彼の口元に、にや、と不敵な笑みが浮かんだ。

「なあ、リュウガ…」

ロイは腕をぐいと引いて、耳に唇を寄せる。

「ものは相談なんだが…」
「?…相談だァ?」

コソコソ話しているようだが、しかしSAKURAには丸聞こえ。
何を言い出すのかと思えば、ロイはさらに声を潜めた。

「なァ……この女が、どこの店の女か知らねーが…」
「?」
「SAKURAには内緒に、しといてやる」
「は?」

キョトンと顔を見つめれば
「まったくいけないリュウガちゃんだ〜〜」なんて
弱点見つけたりとでも、いいだしそうな表情だ。

ロイは人差し指でリュウガの胸を、グリグリ押した。

「な?…前にも女同士が鉢合わせた時、話を合わせてやったろ?」
「………鉢合わ…っ!」
「ん、ん…!」

SAKURAが声を荒げた瞬間、リュウガはそれを制するように咳払いをする。

ムッとすれば彼の顔には…笑み。
SAKURAを、SAKURA本人だと気づかないロイは、視線を行ったり来たりさせている。

「まあそれは、昔の話じゃねーかよ」
「まァ…そうだが……」
「で……相談ってのはなんだ?」

急に面白い物でも見つけたように肩を組まれ、ロイの眉間にシワが寄る。

「なんだよリュウガ。今日は随分、物分かりがいいな?」
「そんなことねーぞ?つか、その相談ってのを早く言え」
「ふむ」

訝りながらも、チラリと横目でSAKURAを見る。

「いや、今日は聖夜だろ?」
「ああ、」
「そして貴様にはSAKURAという、可憐な女がいる」
「ん、それで?」
「――それでだ…っ!!!」

ロイの目が、一瞬鋭く光った。
そして声高々に宣言する。


「この女を今夜一晩オレに貸せ…っ!!代わりに浮気の事は黙っといてやる!!」
「!」
「な?…いい条件だろ?お前からのクリスマスプレゼントとして、俺が、ありがた〜〜くいただいてやる」
「……!…いただっ?!」
「ん、ん!」

再びSAKURAが声をあげると、リュウガは咳払いでそれを制する。
そして彼はニヤッと笑んだ。




「いいぜ?」

「は?!」
「マジかリュウガっ!」

ぎょっとするSAKURAと。
驚くロイ。

しかしリュウガは「ただし」と言った。


「ただし、か?」
「ああ。…ただしお前が…コイツを口説けたら、の話だ」
「………!」
「ふん。そんなモンは余裕だっ!俺様にかかりゃ―女の1人や2人」

ふむふむと、顎に手を置き、うなづくロイ。

「つべこべ言ってねーで、自己紹介でもしたらどうだ」
「……狽、わっ!」

ドンッとリュウガに背中を押され、ロイのカラダがつんのめる。
目の前には、ムッと眉をひそめるSAKURA。
しかしロイは片膝をつき、彼女の右手をそっと取った。

「これはこれは、美しい姫……」

何事も無かったかのように、ロイは手の甲にキスをする。
背後でリュウガが、くくっと笑い。
SAKURAの眉間にシワが寄る。
しかしロイは涼しい顔で、自己紹介を始めた。

「俺さまは…南の海を統治する、リカー海賊団船長の――」
「ロイ船長でしょ?」

「は?」

何で知ってんだァァ――?!
ロイがぎょっと目を剥く。
そして普通なら、ここで気づきそうなものだが……

「ふはは!そうかそうか。…俺を知っているとは!……まあ、有名人だからな、俺さまは……」

…と、ご満悦の様子。

SAKURAは握られた手を引き離して、は……っと息を吐き出した。

「もぅロイ船長…っ!わたしですよ!SAKURAです!」
「ほォー…お前もSAKURAという名か?……ふむふむ…良い名だ。……は?SAKURA???」

膝をついたまま、下から上まで眺めるロイ。

この声。

この顔。

………。


「狽セああああああ!SAKURA、お前本人か???」

勢いよく立ち上がったロイが、もう一度、舐めるようにして彼女を見る。
その視線がある1点で止まった。

「けどお前…っ!ずいぶんと着痩せするタイプ、つーか…なんつーか。……もうちょいペチャンコだったような…」

ロイがチラチラと見つめる先。
それが胸の谷間だと気づいて、SAKURAの顔が真っ赤に染まった。

「もう!どこ見てるんですかっ!さいってーー!!!」
「ぬおおおお!」

SAKURAに突き飛ばされてもなお、信じられない物でも見るかのように、ロイがキョトンと見つめる。
とうとう堪えきれなくなったリュウガが、お腹を抱えて吹き出した。

「ぶっ…ははは!!おまっ!いくらコイツが化粧してるからって、いつまで気づかねーんだよ」
「だってお前…っ!これは変わりすぎだろ!!普段はなんつーか…清楚で可憐で。…それが、これだぞ???」

「む」

誉められてるのか、けなされてるのか。
SAKURAも複雑な表情だ。
その肩に、リュウガは、むんずと腕を回した。

「つうことで……SAKURAの区別もつかねーお前に、コイツはやれねーな、」

へらリと笑えば、SAKURAはムッと眉をひそめて
リュウガの腕を振り払った。

「ところで船長。昔、鉢合わせたことがあるんですか?」
「あ?」
「それって二股ってことですよねぇ?」
「いやそれは…っ!」
「はは…!ざまあみろ、リュウガ!」

「…ロイ船長?」
「な、なんだ?」
「私に浮気を内緒にしといてやる、ですか?…2人はいつから、そんなに仲良しになったんですかね〜〜」
「いや、それはだなァ〜〜」

しどろもどろの2人に、SAKURAの頬が、ぷくっと膨れた。

「もう、2人とも知らないっ!!」

「お……おい待てSAKURA!アレは昔の話しだ!今は浮気なんてしてねーぞ?」
「もォーーー!知りません!!」

そのままスタスタと歩き出す背中を、慌ててリュウガが追いかける。

1人取り残されたロイは2人の背中を

呆然としたまま見送った。







 
   


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