短編


 04

 アツは、気味が悪いほど優しかった。
 風呂を用意してくれ、お風呂から上がると暖かい飲み物を用意してくれて、それから、傷の手当をしてくれた。
 行為の最中は細かい痛みに気づかなかったが、全身至るところに爪の跡が残っていて、熱が抜けた今、全身が裂けるように痛んだ。
 そして、

「っ、アツ、も……いいから……」
「何がいいんだよ……全然よくねーから」
「……ッ、ぅ……痛ぅ……」

 ベッドの上、アツの膝の上に座らされた俺はアツの手によりケツの穴に軟膏を塗りたくられていた。正直、数時間前まで椎名に挿入されていたそこをアツに触れられるのは耐え難いほど恥ずかしかったし屈辱だった。けれど、放置する俺に「駄目だ」と言い張るアツに折れ、現在に至るわけだけど……。

「っ、悪い……」

 裂傷に触れ、堪らず呻く俺にアツは驚いたような顔をし、そして、萎縮する。高校生になってからはあまり顔に出ないようになったアツだが、その表情の微かな変化は昔から変わらない。罪悪感。以前の自分の行為を思い出してるのだろう、アツは、俺が痛がると手を止め、爪が当たらないように中に満遍なく薬を塗り込んでいく。緊張してるのか、微かに指先に力が籠もるのもわかってしまうから仕方ない。

「……嘘、全然痛くねーわ」

「大丈夫だから、そんな心配しなくても」気付けば、俺はアツの腕を撫でていた。条件反射だった。すぐに俺は何してるんだろうかと思ったが、アツの表情がムスッとしたものになるのを見て、あ、と思う。

「……お前は、いつもそうだな」

 それだけ言って、アツは俺から指を引き抜いた。このまま変なことをされるのではないかと思ったが、本当に手当してくれただけのようだ。薬が残った内部はムズムズしてなんだか居心地が悪かったが、焼けるほどの疼きが収まってきたような気もした。
 俺の下着を履き直させてくれるアツは、そのまま俺をベッドへと寝かせる。

「今日は動くなよ」
「……言われなくてもそのつもり」
「……」

 アツは、何もいわずにベッドから立ち上がる。
 そのまま部屋から出ていこうとするアツに「どこに行くんだよ」と声を掛ければ、目線をこちらへと向けたアツは「薬局」とだけ口にした。
 閉まる扉。一人部屋に残された俺は、布団を頭から被り、目を閉じた。
 何もしなければ椎名の顔が頭に思い浮かび、嫌な汗が滲む。忘れられるわけがない。あいつ、家まで追ってこないだろうな。窓の外を確認する勇気はなかった。
 あいつは高校の頃何度かうちに遊びに来たこともある、まだ覚えてる可能性だってあるのだ。

 ……早く、アツ帰ってきてくれ。
 そもそも、こんな時間帯に開いてる薬局なんてあるのだろうか。薬局って、コンビニのことか?でも、薬なら大体リビングの薬箱に揃ってたと思うが……。

 ……アツ、遅いな。なんで俺、アツのこと大人しく待ってんだよ。こんなにも一人が心細く思える夜もなかなかない。
 目を閉じる。アツは変わったと思っていたが、何も変わっていない。ただ単に俺がそう願ってるだけで本当はそうじゃないのかもしれないが、少なくともあのとき、俺を抱き締めたアツの目には見覚えがあった。

 ……アツ。
 目を瞑る。脳は冴えていたが、どうやら体が限界に達したようだ。急激に襲い掛かってくる睡魔に、俺は泥のように深い眠りについた。
 寝てる間、ベッドの側で気配がした。アツが帰ってきたのかもしれない。そう思ったが、鉛のように重くなった瞼を持ち上げることは敵わず、俺は再度眠りについた。

 そして、次に目を覚ましたときだ。枕元に、見慣れた携帯端末があった。

「……これ……」

 節々が痛む体を起こし、端末を手に取る。
 衝撃を受けたようだ、真っ黒な画面は大きく蜘蛛の巣状に割れていた。
 確か、あのとき椎名に取られて、それで……どうしたんだっけ。

「……痛……ッ」

 ベッドから起き上がろうとしたとき、鋭い痛みが腰に走り思わず声を洩らす。

「寝とけって言っただろ」

 すぐそばから呆れたような声が聞こえてきた。
 俺が起きるのを待っていたのだろうか、ソファーに座って雑誌を読んでいたアツはそれらをテーブルに起き、そして俺の元に寄ってくる。

「アツ……これ……」
「アンタのジーンズのポケットに入ってた」
「…………そう、なのか」

 確か、椎名に取り上げられ、あいつが自分の上着に仕舞ったのまでは見たが……もしかしたら店を出るときに俺のポケットに忍ばせたのか? 
 だとしたら、どのタイミングでこんなにひび割れたのだろうか。考えてみるが、どうもなにか腑に落ちない。胸の奥がざわつくのだ。

「腹、減ったんじゃないのか?」
「……あ……言われてみれば……」
「ちょっと待ってろ」

 それだけを言い残し、アツは部屋出ていく。
 パタンと閉まる扉。そこで俺は、こうしてアツとちゃんと会話できていることに気付いた。
 いつもなら俺を無視するか罵詈雑言投げてくるはずなのに……アツが優しい。
 それは今に始まったことではない、昨夜、帰宅時からアツは俺に優しくしてくれる。
 喜ばしいはずなのに、素直に喜べないのはそのアツが優しくなったキッカケのせいだろう。

 ……椎名。数少ない親友だと思っていた。それなのに。
 投げかけられた言葉の一つ一つが蘇り、唇が震える。……犯されたことが悔しいとかムカつくとか、そんなことではない。俺の、俺とアツの秘密を他人であるあいつに知られてしまったことが、なによりも、不快だと思ってしまうのだ。土足で部屋の中を踏み荒らされたような、感覚。

 携帯端末の電源を入れてみるが、画面は真っ白になったままホーム画面が表示されることはなかった。完全に壊れてるようだ。
 正直、俺はホッとした。椎名から何かしら連絡があったらと思うと、生きた心地がしなかったからだ。
 どちらにせよ、修理に出さなければならないが。

 暫くして、部屋がノックされる。
『飯、できけど』そう、ぶっきらぼうに告げるアツは『持ってくるか?』と続けて尋ねてきた。俺の体のことを気にしてくれてるのだろう。

「……いや、降りるわ。……ありがと」

 片付けのことを考えると、そこまでアツに世話を掛けるのも嫌だった。体は確かにダルいが、不良に喧嘩売られたときよりかは全然マシだ。……と思う。
 下へと降りると、リビングからいい匂いがしてきた。扉を開けば、テーブルの上にはいくつもの料理が並べられていた。この短時間で用意したのだと思うと、すごい。料理のりの字も分からない俺は素直に感動する。

「……座れよ」

 アツはそう言って、椅子を引く。……なんか、ここまで甲斐甲斐しくされるのも、違和感があったが今だけは素直にアツに甘えることにした。
 テーブルを囲み、向かい合って食事をする。
 こんなの、いつ振りだろうか。
 実家に帰ってきてからというものの、ちゃんとアツと食卓を共にした記憶がない。
 それどころか、とそこまで考えて、思考を振り払う。食事中に思い出すことではなかった。先日のアツとの行為を思い出し、箸が止まる。
 不意に、アツがこちらを見ていることに気付いた。
 俺の反応を見ていたらしい。ばちりと目が合い、俺は、つい視線を離した。……気まずい。

「そういや、これ、全部お前が作ったのか?」
「有り合わせでだけどな」
「アツ、料理できたのか……」

 なんて、この微妙な空気を変えようと話題を切り出すもそれほど盛り上げるわけでもなく。
 俺は、観念して再び箸を持ち直した。

「それじゃ……いただきまーす」

 手元にあったおかずを摘み上げ、口に放り込む。
 想像していたよりも、しっかりとついた味は俺好みで、なんというか、懐かしいというか、母親と同じ味付けというか。

「……」
「……うまい」
「……不味いわけねーだろ」  

 もしかして母親に作り方を習ったのだろうか。そう口にするアツが、微かに笑ったような気がした。
 しかし、それも一瞬のことだ。いつもの仏頂面に戻る。

「飲み物……水とお茶があるけど」
「ん、あぁ……じゃあ、水……」

 そう答えれば、「待ってろ」とアツは席を立つ。
 用意されたそれはぬるま湯だった。俺は別に風邪を引いてるわけでもないのだけど、アツなりの気遣いということか。俺は、ありがたくそれを頂戴する。

「……」

 なんか、変な感じだ。昔みたい、というにはあまりにも溝があるし俺もアツも変わっていたが、それでも、ゆっくりと流れる時間はなんだか懐かしく思えた。

 食事を終え、アツがテキパキと片付けを始める。
 椅子に座りっぱなしなのも落ち着かなくて、なにか手伝おうかと申し出たがアツには「余計仕事が増えそうだからいい」と断られる。
 それどころか、部屋で寝てろと半ば強制的に部屋へと帰されることになった。
 あれほど俺のことを恨んでるはずのアツが優しいと、嫌な気持ちはしないがちょっと引っかかった。それも変な話だろうが。

 正直体がまだ本調子ではないのは事実だ。言葉に甘えて部屋でゆっくりすることにした。
 もしかしたらまたアツが部屋に来るかもしれないと思って気を張っていたが、いらぬ心配だったようだ。結局その日、俺はゆっくりと休むことになる。
 椎名のことを考えるのが癪だったし、携帯を修理に出すのも面倒で、今誰と会ってもきっとまともな反応できないだろうし、今日は引きこもろう。そう、ベッドに横になれば、いつの間にかに眠っていた。

 どれくらいの時間経ったのだろうか。下のリビングで物音が聞こえてくる。深夜十二時。大分休んだお陰か、体の痛みは大分ましになっていた。
 丁度腹が減っていた俺は、眠気眼のまま階段を降りる。リビングを覗けば、夜勤明けの母親が明日朝のご飯の用意をしていたようだ。

「アンタ今起きたの?」
「んー……今起きた」
「よく寝る子ね。それ以上育ってどうするのよ」
「まーいいじゃん育った方がモテるし。……アツは?」
「篤人ならまたどっか行ってるみたいよ。本当、飽きないわねー」
「……」

 飽きる飽きないとかの問題ではないと思うが、母親曰く珍しいことではないらしいので敢えて俺は放置しておくことにした。
 それにしても、あの夜見た光景はなんだったんだろうか。俺の元カノと歩くアツを思い出しては胸の奥が妙に引っかかった。
 本人に聞くか?けど、今更俺が聞くのも変な気がする。もういいや、知らん、寝よ。そう思い、俺は、カップ麺だけ食って部屋へと戻った。


 翌朝。
 昨夜からアツは部屋に戻ってきていないようだ。
 俺は用意されていた朝食を温めて食べ、テレビをぼんやりと眺めていた。流石に二日目引きこもるには暇すぎる。今日は携帯ショップへと行って代替え機を用意してもらうか。そんなことを考えながら、身支度を整える。
 ふと着替えようと着ていたシャツを脱いだ時、鏡に映った自分の体を見て凍りついた。
 椎名の手の跡がびっしりと残った全身、それは一日目に比べて色濃く広がっており、正直見てられないもので。

「……ッ」

 過る。いろいろ余計なことまで思い出し、具合が悪くなる。……忘れよう、として忘れたら苦労はしない。
 どっと滲む脂汗を拭い、俺は顔を見てみぬふりして服を着た。……やっぱり出掛けるのやめようかな、と思い始めたときだった。玄関の方で、扉が開く音がした。
 母親は仕事に行ったばかりだ。だとしたら。と、思い玄関を覗こうとしたときだ、ドッと何かが落ちるような音がした。何事かと思い覗けば、そこには、玄関前、うつ伏せに倒れるアツがいた。

「……アツ……?」

 驚いて、慌てて駆け寄る。「どうした」と、声をかければ、アツはゆっくりと目を開いた。「なんでもねえ」と、枯れた声で吐き捨てるアツ。顔は傷だらけで、服には所々赤黒い染みで汚れていた。どう見てもなんでもない、とは思えない。

「……誰にやられた?」

 声が、震える。腹の底から嫌なものが込み上げてくる。
 整った顔も、切れ、殴られたのだろう、腫れているのが痛々しくて見ていられない。アツはこちらを睨み、そして、

「転んだだけ」

 そんな言い訳が通用すると思われてることが癪だった。

「アツ……ッ」
「んだよ、今更兄貴面か?……お前に関係ねえだろ」

 昨日、アツは優しかった。俺のためにご飯とか作ってくれたし、薬だって買ってくれた。だから、また昔みたいにとは言わないが、普通に戻れるのかなと思ったが、せっかく戻った溝は以前よりも大きく広がったような気がしてならなかった。

「……そうかよ」

 こうなったアツに何言っても仕方ない。俺は、立ち上がり、アツから離れた。アツは、玄関で座り込んだまま動かない。リビングへと戻った俺は、濡らしたタオルと救急箱掴んで玄関のアツのところへと向かった。バタバタと戻ってくる俺を見て、アツはぎょっとする。

「……おい」
「昨日、お前だって俺がいいっつっても手当、勝手にしただろ」

「だから、お返し」そう言えば、アツは何か良いかけて、そして呆れたように舌打ちをした。勝手にしろ、ということなのだろう。そう解釈し、俺は、アツを座らせ直す。殴られてから時間が経っているようだ。鬱血した跡は広がり、鼻血も固まっている。俺は、アツの顔の汚れをタオルで拭った。
 その間、アツは大人しかった。借りてきた猫みたいだ。思いながら、俺は、髪を撫でる。綺麗な髪も乱れてる。所々血がこびりついて固まってるようだった。
 返り血、なのだろうか。アツの出血は鼻血ぐらいしか見当たらないのに対して、全身至るところに血の跡がついている。気にはなったが、聞くことはできなかった。

「……痛むか?」
「全然」
「嘘吐け。……痛いだろ」
「……アンタに比べたらこんくらい平気だ」
「……俺は、違うだろ……」

 そうじゃなくて、と、言いかけたとき、アツの手が頬に触れる。汚れた指先。昔の柔らかい指とは違う、硬質な皮膚の感触。頬の輪郭を確かめるように撫でられ、体が強張る。

「……ッ、アツ……動くなよ……」
「早くしろよ。……手が止まってる」

 わざとおちょくってるのだろう。怪我が痛むくせに、こういうときだけ笑うアツにちょっとかちんとする。俺が、どんだけ、心配してるかも知らないで。
 俺は、ぐっと言葉を堪えて、アツの顔の汚れをそっと拭う。やはり痛むのだろう。傷口付近をなぞる度にアツの顔が歪む。
 顔の怪我に消毒やガーゼなどは使わないほうがいいと聞いたことがある。汚れだけ拭い、手を離した時俺は不意にアツの腹部に目を向けた。暗い色の服でわかりにくかったが、その腹部は真っ赤に染まっていて思わず目を見開く。

「……アツ、お腹も怪我したのか?」

 あまりにも夥しい出血量にぞっとし、慌ててアツの上から退いたときだ。
 アツは「違う」といい、そして、腹部のポケットから何かを取り出す。ごとりと音を立て、床の上に放り出されたのは真っ赤に染まったタオルでぐるぐるに巻かれたそれで。

「……っ、なんだよ、それ……」

 無造作に巻かれたタオルの中、出てきたのは同様赤く汚れた大振りのナイフだった。

「っ、なんだよ、これ……」

 それを見た瞬間、厭な想像が思考を巡る。どうして、こんなものが。アツは、面倒臭そうに舌打ちをする。

「……おい、アツ……」
「俺のじゃねえよ」
「……え」
「刺されそうになったから取り上げただけだ」

「……なんか文句あんのかよ」と、こちらを睨んでくるアツ。刺されそうになった。その言葉に、背筋に厭な汗が滲む。

「じゃ……じゃあ、この、血は」
「取り上げたときにそいつに引っかかっただけ。何勘違いしてんのか知らねえけど、俺はなんもしてねえから」

 そうアツはそう言うが、俺にとっては安心できるようなものではない。
 アツが誰かに刺されそうになった。傷付けられた。その事実が恐ろしかった。

「……この顔も、同じやつか?」
「そうだよ」
「誰だよ、そいつ……」

 声が震える。俺の弟に、手を出すなんて。しかも、こんなに傷作らせて。
 そっとアツの髪に触れれば、アツに手を握り締められる。

「……聞いてどうすんだよ」
「アツにこんな目に遭わせたやつ、ほっとけるかよ」
「……」
「その様子からして、知らないやつじゃないんだろ」


 アツ、と、もう一度名前を呼ぼうとした時、背中に回された手に抱き寄せられる。バランスが崩れ、アツの上に乗りそうになった寸でのところで壁に手を突くが、構わずアツは俺に顔を近づけた。ばちりと睫毛がぶつかるような音がして、すぐに唇を重ねられる。柔らかい感触。錆びた鉄のような匂い。

「っ、ん、ぅ……」

 キスなんか、してる場合ではないのに。身を攀じるが、構わずアツに後頭部を掴まれ、深く唇を重ねられる。誤魔化される。そう思い、咄嗟にアツの肩を掴み、引き剥がした。

「……篤人……っ!」

 そう、声を上げれば、アツ……篤人はふっと破顔した。年相応の、まだ幼さの残る笑顔。それはどこか懐かしさもあって。
 やっと名前を呼んでくれたな、といいたげに、痛々しく笑うのだ。そして、篤人は俺を片腕で抱き締めた。

「……なんのために俺が殴られてやったと思ってんだよ。……アンタに余計なことさせたくないからだよ」

 ぶっきらぼうな物言いは相変わらずだが、発するその声は酷く優しかった。
 どういう意味だと言い掛けたとき、一つの顔が浮かぶ。俺に余計なことさせたくない、ということは、まさか。

「っ、まさか……椎名か……」

 血の気が引く。俺と篤人の関係を知ったあいつが篤人に直接なにか仕掛けにいくことは考えなかったわけではない。けれど、こんなナイフ、それに、篤人の怪我。それを見て、血の気が引いた。

「……もうあいつのこと気にするのやめろ」

「けど」と、口を挟む。
 こんな目に遭わされて、何もできないなんて。と思うのに。篤人はに顎を掴まれ、強引に顔を上げさせられた。

「……いいな?」

 そう口にする篤人に笑顔はない。
 有無を言わせないその圧力に、俺は何も言えなかった。
 何も答えない俺に、篤人は俺の肩を叩き、そして、ヨロヨロと立ち上がる。

「……風呂、入りたいから沸かして」

 足を引きずるように歩いていく篤人はそれだけを言い残し、サバイバルナイフを手にしたまま2階へと上がっていった。

 後日、俺は知人に会ったときに椎名が逮捕されたということを聞いた。知人は「大分酔ってたらしいしな、お前も飲み過ぎには気をつけろよ」なんて言っていたが、本当に酒だけのせいなのか俺にはもう分からない。
 ネットで調べると、確かにニュースになっていた。篤人が早朝に帰ってきたあの日の深夜、男子高校生Aを暴行し、刺そうとしたところを通行人が止めに入り、現行犯逮捕。
 場所からしても、椎名がよく遊びに行ってる付近なので間違いないだろう。
 そしてこの男子高校生Aは言わずもがな、篤人だろう。篤人はこの日のことをなにも言わないが、昨日の今日でただの偶然のようには思えなかった。

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