短編


 02※


 飲んだ翌日、記憶が飛ぶことはよくあった。焼けるように乾いた喉、そして脳味噌ごと揺さぶるような鈍い頭痛に目を覚ます。

「クッソ……頭いってぇ……」

 全身が酷く怠い。昨日ハイペースで飲んだからだろうか、完全に二日酔いのようだ。
 見覚えのある部屋の中、そのベッドの上。そういや、昨日はどうやって帰ってきたのだろうか。皮膚に張り付くシャツからして、着替えてるようだがまるで記憶にない。
 それにしてもやけに生々しい夢を見たような気がするが……。思いながら起き上がったとき、隣に俺以外の熱を感じた。不自然に膨らんだ布団、恐る恐る捲る。そして、息を飲んだ。

「っ、て、あ?!」

 ベッドの上。
 なんということだろうか、そこには猫のように丸まった大柄な男もとい実弟がそこではすやすやと寝息を立てて眠っていた。それだけでもなかなか驚きだったが、やつは下着しか履いていない。そして、体の至るところに赤い傷跡があって……。
 なんで、どうして、と硬直していたとき、アツは眩しそうに目を開く。

「……うるせぇな……声抑えろよ」
「おい、なんで、アツ、お前……ここに……」
「は?……お前が一緒に寝ろって言ったんだろ」
「え」

 全く覚えてねえ。俺がアツに?そもそも俺は確か椎名に連れて帰ってきてもらってそれで……。と、そこまで記憶を掘り返したときだ。脳裏に、近付いたアツの顔が蘇る。唇の感触。肩を掴む指の感触。あらゆる感触が今になって蘇り、血の気が引く。

「……俺、なんか酔ってアツに変なことした……?」

 イヤな汗がだらだらと滲む。
 小声で尋ねれば、じとりとこちらを睨んでいたアツはそのまま俺の腕を引っ張り、それからベッドへと引きずり戻した。

「………………」
「あ、アツ……?……っん、ぅうッ!」

 躊躇いなど、なかった。朝日の差し込む部屋の中、俺は、寝起きの弟に唇を重ねられる。
 とてもじゃないが家族にするような親愛のそれとは違う甘美なそれに、昨夜の記憶がどっと蘇る。
 夢ではない、やっぱりあれは、全部、現実だったということか。

「待っ、んんッ、ぐ……ッ」

 咄嗟に逃げようとするが、背中に回された手に更に抱き締められ、敵わなかった。
 シーツが擦れる音に混ざって、濡れた音が響く。唇を舐められ、体が強張った。

「……思い出したか?」

 そう、こちらを覗き込むアツの口元は皮肉げに歪む。
 久し振りにまともに見た弟の顔は、男の顔をしていた。ドキドキとか、ショックとか、嫌悪感とか。そんなものを改めて感じる余裕もなかった。ただ、俺の目の前には弟と寝てしまったという事実だけが残っていて。

「……夢じゃ、なかったのかよ」

 そう口にする俺に、アツは「お前本当酒やめろよ」と吐き捨て、ベッドから降りた。暫く俺はその場から動けなかった。
 外はもうすでに日が高く登り、泣き叫ぶセミの声がやけにうるさく響いた。


『アツ、オナニーってしたことある?』

 それは、俺が中学の頃の記憶だ。
 アツはまだ小学生の上学年だった。恋だとかそういったものに色めきだつ子が増えてくる中、まだ外で遊ぶ方が楽しいといったくらいだ。そんな弟に、俺はそんなことを尋ねていた。

『……オナニー?知らない……』

 ちょっとした好奇心だった。
 自慰行為を覚えたばかりで、アホみたいに友達と抜きあって遊んでいた俺はそれを弟にも試そうとしたのだ。まだ未成熟だった弟にだ。

『こうやって、ちんちんを擦んだよ。そしたらすげー気持ちいいの』

 最初は狼狽えるアツの目の前で制服の下を脱いだ。そして目の前で実践してみせたのだ。

『亘、なにして……』
『わかる?ほら、硬くなってきたの』
『……うん、おっきくなった』
『……ッ、そのまま擦るの、こうやって、上下してさ』

 狼狽えるアツも異常さには気付いていたのだろう。それでも、アツは抵抗せず、寧ろ、興味津々になって俺の体に目を向けていた。そして、まだ小さかったその手を重ねるようにして自身を擦り上げれば、酷く興奮した。
 あのアツの手が、俺のを扱いてる。それだけで、ブスな女優の裸体よりも勃起するのだ。

『なあ、見て、これ、先っぽ濡れてきただろ?』
『うん……なんかぬるぬるするのが出てきた』
『っん、……これがぁ……気持ちいいってことで、その、次に白いのが出るから……それを女の子の中に出したら……赤ちゃん出来るって……っ、ぅ……ふふ、やべ、アツの指、ふにふにきててやべーわ……』
『亘、大丈夫?痛い?赤くなって、すごい苦しそう……』
『っ、ん、大丈夫……っ、ちょっと、気持ちよすぎてさぁ……ッ大丈夫、大丈夫だから、ぁ……そんな顔しなくていいよ……ッ!』
『本当?……亘、苦しくない……?』
『っ、アツ、んん……ッ、いい、すげー、イキそ……』

 拙い指先。テクニックなんてクソもない、ただそのときのテンションに身を任せ、雑な手コキにも関わらずここまで感じてしまうのは相手がアツだからか。背徳感。まだ幼い弟を汚してるというその現実が何よりも興奮剤になるのだ。

『……すごい、亘の、ビクビクしてる……っ』
『あっ、ぁ、や、アツ……ッ、そこ……ッ!』
『ここ?ここが、気持ちいいの?』

 最初は怖気づいていたアツは、いつの間にかに食い入るように俺の反応を見ては性器に触れていた。
 馬乗りの体勢になったアツは、夢中になって俺のを弄っていた。一度目は自分でも驚くほど呆気なく射精した。

 飛び散る白濁を被ったアツはイヤな顔一つせず、それどころか『お兄ちゃんのちんちんが怪我した』ってショック受けていたがそれを必死に説明したのを思い出す。
 それから、何度か俺はアツと扱き合いをしたことがある。とはいっても、他の友達とするのとは違う。そこにはエロ本もエロ動画もない。お互いの体に触れたらすぐに勃起するのだ。罪悪感なんてなかった、ただ気持ちよくなれたらよかった。アツだって嫌がってなかったし、というのが俺の言い訳だ。
 けれど、それがおかしいと気づいたのはそんなに時間は掛からなかった。
 アツが中学に上がり、俺が高校生に上がった頃。
 中学生に上がると同時に、小柄で、背の順としても前から数えた方が早かったアツの身長が伸び始めた。

 夜、ベッドで眠ってるときだった。扉が開く音が聞こえてすぐ、もぞもぞと布団が動いたのだ。それからすぐ、背中の辺りに人の熱を覚えた。
 浅い息。抱きすくめるように背後から体を弄られたところで、意識ははっきりと覚醒した。アツだとはすぐに分かった。
 そのまま寝たフリ決めていると、臀部に勃起したものを擦りつけられ始める。
 そこで、俺は自分とアツの意識に相違があることを知った。そのときは俺が起き、アツのを扱いて抜いてやった。けれど、アツがもし俺に挿入しようとしていたと思ったら、少し焦った。
 それからだ。俺は、アツと距離を置くようにしたのは。手を出したのは俺だ。けれど、これ以上は違うと思ったのだ。

 何度かアツに強請られたが、それでも拒んだ。最終的にアツと顔を合わせることすらも避けるようにして家の外で友達や当時の彼女と遊び回ることになる。
 ずっと、忘れてた。そんなことがあったな、と昨日の俺は笑い飛ばせていたのかもしれないが、キスをされた今、そして寝てしまった今、笑えなかった。
 アツも、覚えていたというのか。けど、時効だろう。俺も酔ってたんだし、今回のは仕方ない。……というか、キスしたことは思い出したがところどころ記憶があやふやなところが多いのも事実だ。
 結局昨日はどこまでしたのだろうか。ケツに違和感はないが……。
 なんて思いながら、一度リビングへと降りることにした。アツはシャワーを浴びてるようだ。風呂場の方からシャワーの音が聴こえていた。

 今日は昼間予定ない。
 昨日の流れで朝までオールで遊び回る予定だったので、敢えて空けていたのだが……まあ、こんな調子じゃ休んでた方がいいだろう。
 夜まで暇だとはいえ、アツと二人きりは流石にバツが悪い。状況が状況だから、余計。
 取り敢えず舌の乾きを潤すためにリビングに降りて飲み物を探っていた。
 そして炭酸ジュースのボトルを手を伸ばしたときだ、いきなり背後から伸びてきた手にドリンクごと握られた。
 濡れた手の感触に驚いて振り返れば、そこには風呂上がりのアツがいた。濡れた髪のせいか、まるで他人のようにすら思え、一瞬本当に驚いた。

「っ、……アツ……」
「それ、俺のなんだけど」
「悪い、気付かなくて……じゃあ、俺はやっぱりこっちを貰おうかな」

 ドキドキする心臓を必死に抑えながら、俺は誤魔化すように隣の牛乳パックに手を伸ばそうとするが、重ねられた掌に指を絡められ、体が固まる。

「あの、アツ……手……」
「お前、少し縮んだんじゃねえの」

 耳元で囁かれる。指と指のその谷間を撫でられ、ぞわりと腹の底から熱が込み上げてくる。
 やばい……この流れは、身に覚えがある。逃げなければ。そう思うが。

「アツ……手、離し……ッんん……ッ」

 拒むよりも先に、唇を塞がれる。太い舌に絡められ、愛撫するかのように舌同士を擦り合わされれば頭の中で火花が散るみたいに熱くなって。
 離れようとするが、手をぎゅっと握り締められ、敵わない。冷蔵庫、その扉に押し付けられるようにキスをされる。頭が痛いとか、二日酔いとか、酒の匂いとか、そんなもの気にする暇すら与えられない。

「ぁ、ふ、ぅ、んん……ッ」

 胸元、伸びてきた片方の手にシャツの上からぐりぐりと乳首を摘まれれば心臓の辺りがじわりと熱くなる。だめだ、とアツの胸板を叩くけれど、思いの外力が出ない。アツは躊躇なくその硬い指先で突起を転がす。こんな厭らしい触り方、されたことがないはずなのに、知ってる。身に憶えのない得体の知れない感覚がこみ上げてきて、混乱した。

「っ、ァ、ダメだ、だめ、アツ、ダメだって……ッ」
「女みてぇな声……そんなんでよく女抱けたな」
「ッ、ぁ、やッ、ぁ……アツ……ッ」

 背中を丸め、なるべくアツの手から逃げようとすればぐっと腰を抱かれ、胸を仰け反らせられる。容赦のないその言葉が心臓に突き刺さる。
 できることなら、俺だって我慢したい。けれど、アツに触られてるだけで全身の筋肉が弛緩し、声が漏れるのだ。それこそまるでこの体が俺のものじゃないみたいに。

「……感じ過ぎ」

 そう、胸元に顔を寄せるアツ。その口から赤い舌が覗いたと同時に、シャツの下から主張し始めるそこを舐められ、ぞわりと背筋が震えた。

「っん、ひ、ィ……ッ」

 腰が震える。逃げようとすればするほど強く抱き締められ、硬くなったそこに歯を立てられる。甘く噛まれ、シャツが張り付くほど舌で嬲られ、吸われる。擽ったい、どころではなかった。違和感。それ以上の、甘い熱が全身へ巡る。夢中になって胸をしゃぶるアツに、ただ恥ずかしくなって、それ以上に、満更でもない自分が、怖くて。
 熱が溜まる下半身。膨らみ始めたそこを擦るように腰を押し付けられる。アツも、興奮してるのが分かった。昼下がりのリビング。誰もいないとはいえ、普段ならば家族が団欒するそこでこんなことをしてる自分たちがただ浅ましくすら思えて、恥ずかしかった。

「アツ……っ、や、めろ、本当……これ以上は……ッぁ……」
「……うるせえな。今更真人間ぶってんじゃねーよ」

 ぎゅっと片方の突起を抓られた瞬間、声にならない声が漏れる。咄嗟に口を覆うが、遅かった。指先、固く凝り始めたそこを執拗に転がされれば息が漏れる。思考が鈍る。何も考えられなくなった。
 執拗に体を弄られ、まともに立つこともできず、床の上、座り込む俺に、アツは冷蔵庫からボトルを取り出した。さっきの炭酸ジュースだ。
 それを手にしたまま、アツは俺の顔を覗き込むように座り込む。そして。

「喉乾いたんだろ?……口、開けろよ」

 中学のときのときとは違う。すっかりと声変わりしたその声は、甘く脳髄まで響く。命じられ、何も考えられなかった。無意識に口を開けば、ボトルのジュースを一口飲んだアツはそのまま俺に口付けをする。

「っぅ、あ……んく……ッ」

 薄く開いた口から、アツの体温を孕んだ炭酸ジュースが流れ込んでくる。瞬間、広がる濃厚なブドウの味と甘ったるいほどの炭酸。こんな状況でジュースを味わうことができる図太い人間がいるならば是非、紹介してほしい。何度も角度を変え、舌ごと押し流されるジュースは時折唇の端から零れ落ちる。それも構わず、何度もアツは俺にジュースを口移しで飲ませた。

「っ、は、ぁ……ッ」

 抵抗する気すら失せていた。顎先へと滴るジュースごと顔を舐められ、体がびくりと震える。
 後退ればすぐに壁際まで追い詰められる。見詰め合うのも数秒、今度は普通のキスをされる。
 こんなにキスしたら唇がふやけてしまうんじゃねーのというレベルのキス魔に、俺は、正直恐怖していた。自分の弟でありながら、俺の知ってるアツとは違う。明らかに、慣れている。舌の動かし方、どうすれば苦しくならないか、咥内のどこが一番感じるのか、アツのそれは明らかに把握してるものだった。
 これ以上は、本当に、シャレにならない。お互いに酒も入っていない状況、誤魔化しようがないのだ。

「アツ……も、やめろ……っ、あのときは、俺が悪かったから……っ、やめよ、も……なぁ……ッ」

 アツは、怒ってるのだろう。俺がアツから逃げたことを。だからこそ、謝った。正直、俺は然程重要視していなかった。ちょっとした悪ふざけの延長線だと思っていたからだ。けれど、逆の立場だったら。わけのわからぬまま翻弄されるのはとてもじゃないが、耐えられない。それをアツにしてきたのだと思うと、謝罪が出た。
 けれど、アツの反応は俺が思っていたものと正反対だった。その眉がぴくりと反応する。

「……また、逃げるつもりかよ」

 その目に浮かぶそれは憎悪にも似たどす黒い黒い炎で。
「立てよ」と、乱暴に腕を掴まれ、引き上げられる。

「っつぅ……ッ」

 どん、と突き飛ばされたかと思えば背後にはテーブルの感触がした。近づくその手に反応するよりも先に、テーブルの上に押し倒される。血の気が引いた。

「ぁ、アツ……」
「自分勝手だよなぁ。本当……昔からそうだよアンタは。……俺の気持ちなんか全く考えず、俺をダメにして、他に体のいい玩具見つけたら捨てていく」

「俺は、アンタしかいなかった、ずっと、それなのに……アンタにとって俺はたくさんの玩具の中の一つでしかなかったわけだ」こんなにも饒舌なアツを今まで見たことがあっただろうか。けれど、吐き出される言葉は痛々しく、その棘に心臓がチクチクと痛んだ。
 俺のせいだ。そうアツは澱みなく言い放つ。
 何も言い返せなくなる。俺は、アツから手を離した。アツがしたいなら、そう思うと、させてあげたくなるのだ。罪悪感、同情心、どの言葉を選んでもしっくりこない。抵抗をやめる俺に、アツは小さく舌打ちをすした。そして、乱暴に俺の下腹部に手を伸ばす。

「……今更なんだよ、その面」

 骨ばった手に腿を撫で上げられ、腰が震える。逃げ出したい気持ちを堪え、口を塞ぐ。今までの分の罪滅ぼしだ、そう思うと、耐えられるような気がした。……気がしただけだった。
 腿を這うその指は徐に背後へと回り、そして、スウェットのウエストのゴムを引っぱるように滑り込んでくる。そのまま人のケツを覆うように這わされる無骨な掌に、身が竦む。

「待っ、おい、アツ……ッ」
「待たねえ」
「ぅ、んん……ッ!」

 左右の尻たぶを揉みくちゃにされ、谷間を広げるように左右に押し広げられ、そして、叩かれる。まさに好き勝手人の体を触るアツに恥ずかしさが込み上げてくる。が、すぐにそれどころではなくなる。

「……っ、はぁ……ックソ……」

 苛ついたように吐き捨てるアツ。そして、スウェットごと下着を脱がされ、青褪める。

「っ、ぁ、や、め……っ!」
「実の弟に欲情してたド変態が今更一人だけまとも振ろうったって許さねえから」

 慌てて下着に手を伸ばすが、アツはそれを読んでか、爪先から下着を引き抜き、床の上へと捨てる。
 スースーする下半身、力いっぱい足を広げられ息を飲んだ。

「……アンタのせいで全部滅茶苦茶になったんだよ、責任取れよ、クソ兄貴」

 炭酸ジュースのボトルを手にしたアツは、そう、凶悪な笑みを浮かべた。

「っ、待って……待てって、アツ……」

 汗が滲む。足をばたつかせようとするものの、アツの指に力が入りそれすらも封じ込められる。ボトルのキャップを咥えて開けたアツは開いたその口をこちらへと向け、そして俺の制止を無視して肛門にねじ込んできた。正直、それだけでも生きた心地がしなかった。
 アツ、やめてくれ、と口にするが、アツはふと笑って、そして思いっきりボトルを潰した。同時に、炭酸水が体内に流れ込んでくる。痛みにも似た刺激に、声にならない悲鳴が漏れる。冷たくて、熱い。テーブルの上、のたうち回りそうになる俺の体を押さえ込んだアツは、ボトルの口が外れないようにしっかりと根本を固定し、そして更に傾けてくる。甘い匂い。体の中で異物が弾けるその感覚は耐え難いもので。

「……っ、間抜け面だな……お前の付き合ってきた女たちに見せてやりてえわ」

 見たことのない凶悪な笑み。息が浅くなり、目の前が霞む。炭酸ジュースで膨れる腹の中、動くことも辛くて、それでも構わずアツはボトルに残ったものを全て俺の中へと流し込んだ。最初のこのような冷たさはない。生ぬるい違和感が体を満たす。

「ぁ……あぁ……ッ!」

 丸まった背筋へと流れるジュース。葡萄の匂いが辺りに充満する。息苦しさも違和感もだが、それ以上に、恥ずかしくて堪らなくて。アツの顔がまともに見れていないとき。
 腰を抱えていたアツの手がぐっと俺の腰を高く持ち上げた。溢れる液体。空になったボトルを引き抜き、床へと捨てたと同時に、液体の溢れ出すそこにアツは口を付ける。それは躊躇いのない動作で、足と足の間、股に顔を埋めたアツはそのまま肛門に舌を這わせた。瞬間、血の気が引いた。品のない音を立て、アツは、俺の体内に押し流されたジュースを啜るのだ。

「……っ、うそ、やめ、飲むなッ、ダメだ、あつ、やめろ、やめろって……っ!」

 足をばたつかせ、アツの背中を蹴る。けれど、それすらも無視してアツは指で濡れそぼったそこを押し広げ、そして最奥へと舌をねじ込んでは溢れるジュースを飲み干す。
 アツの舌が這った場所が焼けるようだった。自分の体内、それも排泄器官を通ったそれを当たり前のように摂取するアツが理解できなくて、恥ずかしくて、目の前が赤くなる。何も考えられなかった。アツの髪を引っ張り、「やめろ」と声を荒げてもアツはやめなかった。膨れた腹が元通りに戻った頃。テーブルの上で横たわる俺を見てアツは笑った。アンタにも恥っていう概念あったんだな、とでもいうかのように。

 home 
bookmark
←back