短編


 Emetophilia

 いつもついついお腹がいっぱいになるまで食べてしまう。
 それで気分悪くなってると母親はちゃんと自分の食べられる量を考えてから食べなさいと怒るけどほんと全然わかってない。
 この吐き気を催す満腹感が堪らないっていうのに。

1.Emetophilia
【嘔吐嗜好】

 腹にものを詰め込んだあと、食後すぐに便所に駆け込む。
 そして見慣れた便器を掴み、その場に踞るように顔を近付けた僕はそのまま口の中に指を突っ込み喉ちんこを引っ掻くように咥内を刺激した。すると、ほら、全身が強張り腹の底から込み上げてくる。

「お゙ぇ゙ッ」

 開いた喉から押し出されるように咥内へと込み上げてくる吐瀉物は開きっぱなしの口から便器の中へと溢れ、ボタボタと音を立て水に沈んだ。
 腹に入れたばかりのそれはまだ形を残していたままで胃液独特のあの苦味はなかったが僕は特に食べたすぐの嘔吐が好きだった。
 固形物が逆流するこの感触が好きだった。
 食べ物たちが混ざった味が口の中に広がる。
 幸い今日は料理の量が多かったしまだ腹にはたくさんのものが残っている。
 もっと、もっとだ。
 満たされた腹の中の異物を全て吐き出し空にしたい衝動に駈られた僕は構わず汚れた指先で喉奥を刺激。
 二回目の嘔吐だからか一回目に比べ開いた喉はつっかえずに吐瀉物を吐き出してくれる。

「ぅえ゙え……ッ」

 ビチャビチャと音を立てて便器へと吸い込まれる濁った色の液体は酸っぱく、苦い。しかしその独特の強い酸味は癖になる。
 四回目以降はどれだけ喉を刺激してもただ前回の食事した分の胃液が漏れるだけで吐瀉物が流れてくることはなかった。
 膨れていた腹はいつの間にかに通常時に戻り、はぁはぁと息を荒くした僕はそこでようやく紅潮した顔を便器から離し額に滲む脂汗を拭う。
 便器を照らす目映い照明の明るさに一瞬目眩を覚えた。
 それを耐え、僕は便器の中を見下ろす。
 便器の中いっぱいに広がった吐瀉物は便座カバーまで飛び散り、異臭を放っていた。
 ああ、また母さんに怒られるな。
 なんて思いながらスウェットの下から勃起を主張する自分の愚息を一瞥した僕は唇に残っていた吐瀉物を舐めとり、口許に笑みを浮かべた。
 ……それじゃあ、いただきます。

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