救出劇



カーンカーンカーン...



「・・・ん?警鐘?」



しばらく悶えていると、耳に入る大きな音。

あれが鳴ったということは・・・



「やべ!物語進んでるじゃん!」



悶えてる場合じゃなかった!

とりあえず外壁から下りようと、私は足を踏み出した。










外壁を下りると、そこに広がっていたのはまさに地獄絵図だった。

ここ、デイドン砦に向かってくるブルータルを先頭にした魔物の大群。

その大群から逃げようと必死に足を動かす人々。



「・・・マジで悶えてる場合じゃなかったな」



視線を横にずらすと、門を閉めようとしている騎士を邪魔するラピード。

門の向こう側では、逃げ遅れている人を助けるために、ユーリとエステルは走っている。



「・・・」



何か出来ることはないかと、頭をフル回転させる。

そこでユーリが蹲っている女の子を抱え、こちらに向かって走り出す。

その時、女の子の手から何かが落ちた。



「あれは・・・!」



その存在に気付いた瞬間、私は走り出す。

逃げ遅れた人を助け、門の真下にいたエステルは魔物の大群に向かって走り出す私を見て目を見開いた。



「ユイ!?何してるんです!?早く戻って・・・」

「ごめんエステル!私行かなくちゃ!」

「ユイ!」



エステルの焦った声を聞きながらも、女の子の落としたものの所へと走る。

前方には女の子を抱えているユーリの姿が。



「ったく、めちゃくちゃ目立ってんじゃねえか。・・・ってユイ!?」

「あ、ユーリ!」

「何してんだ!」

「ちょい用事が!」



魔物に突っ込んで行く用事ってどんな用事だ!

おそらくユーリはそう考えているだろうが、今はそんなことに構ってはいられない。



「あれ!」

「あ?」

「お人形、ママのお人形〜!」

「そういうわけだから、先戻っといて!」

「あ、おい!」



ユーリの腕の中で、女の子が泣き叫ぶ。

女の子の視線の先には、先ほどユーリに抱えられた時に落ちた人形。



「大丈夫!人形は必ず取り戻すから!」



そう女の子に力強く言って、ユーリの焦った声を背に私は再び走り出す。

人形まで、あと少し。



「・・・っ!よし、人形GETだぜ!ピッピカチュー!」



独り言を言いながら、人形を手に取る。あとは戻るだけ。

・・・けっこう簡単に言ってるけど、魔物の大群真後ろにいるからね!?

そして魔物を恐れてか門が閉まってきてるからね!?



「うおおおおおおおおおおおお!」



魔物から逃げながら、必死に足を動かす。

門まで、あと少し。



「・・・っ!」



ふと後ろを見ると、目の前にはブルータル。

・・・これ、やばくね?

そう判断した私は、完全に閉まりかけている門の向こう側にいるユーリに向かって叫ぶ。



「ゆうりいいいいいいいいいいいいいい!!」

「は・・・?」

「私の愛を受け取ってええええええええええええええ!!」



そういい、持っている人形を全力で投げる。

真っ直ぐに飛んでいった哀れな人形は見事ユーリがキャッチ。

オーケー、完璧だ。これでもしもの場合でもストーリーは何事もなく進めるはず。

あとは、私の運と体力に任せよう。ってなわけで・・・



「どおりゃあああああああああああああああああああああああああああ!!」



この俺、渾身のヘッドスライディングううううううううう!!

自分の腹が摩擦で熱くなると同時に、後ろでは門の閉まる音。

・・・間に合った。



「ふうっ・・・」

「お姉ちゃん!ありがとう!」

「・・・ああ、いえいえ〜。無事でよかったね」

「うん!」



ユーリから渡された人形を見て、嬉しそうに笑う女の子。

にっこりと笑えば、女の子はもう一度お礼を言って走っていった。



「・・・ぷっ」



女の子も人形も無事だと分かったら、大きな安心感と共に、笑いが込み上げてきた。



「あはは!あはははははははははあだぁ!?」



そのまま笑えば、思いっきり頭を叩かれた。

後ろを振り向けば、怒りで眉間に皺を寄せたユーリの姿が。



「あ、ユーリ」

「この馬鹿!心配させんじゃねえ!!」

「本当に、心配しました・・・!」

「エステル・・・」



ユーリの横には、涙目のエステル。

どうやら本当に心配してくれたみたいだ。



「・・・あんがと、心配してくれて」

「まったくだ」

「ホントに、もう!」



怒りを通り越して呆れた視線を送るユーリと、

拗ねたようにそっぽをむくエステルを見て、私は少し笑ってしまったのだった。





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