無茶


チュンチュン...


朝、小鳥のさえずりとともに目を覚ます。

今日もルークに振り回される、そんな一日なのだろう。

朝真っ先にそんなことを考える自分に内心苦笑しながら立ち上がろうとした。



「ん・・・?」



ぐらり、と一瞬足場が歪む。

しかしそれは本当に一瞬で、今は普通に立てる。



「はは、まさかこの前のルークの風邪がうつったかな」



数日前。

元気だけがとりえのルークが風邪を引いた。

もちろん自分が看病した。他の人にうつらないよう部屋に入らないように釘を刺しておいた。

それがまさか自分にうつなんて。



「・・・ま、大丈夫かな」



伊達に鍛えていないこの身体。

放っておけば治るだろうと、俺はルークのところに向かうため足を踏み出した。









「おいルーク。本当に大丈夫か?」

「大丈夫だって!ガイは本当に心配性だな!」

「だが・・・」

「大丈夫だっつーの!」



少々ふらつく足を無視しながらルークのもとへ着くと、ルークは腰に刀を差していた。

理由を聞けば、どうやら一人でクエストに行くらしい。

いくら普通の人よりは強いとはいえ、ルークは王族。

一人では危険だと着いていこうとすれば、ルークは何故かすごく嫌がった。・・・傷付くな。



「ったく。俺もう行くぞ!」

「あ、おい!ルーク!」



俺の引き止める声を無視し、ルークは行ってしまった。

すぐに追いかけようと足を動かせば、背後から腕を捕まれた。

逸る気持ちを抑えながら振り向くと、そこにはユーリとともにこのバンエルティア号に来たエステルがいた。

そう、エステルが、俺の腕を掴んでいた。



「うわああああああああああああ!!」

「そ、そんなに驚かなくても・・・」

「す、すまない!君が嫌いなわけじゃないんだ!」

「ふふっ。大丈夫です、知ってますから。それより、ガイに頼みたいことが・・・」

「俺に?」



未だに煩い心臓を押さえるようにしながら、顔では笑顔を保つ。

それが逆効果だということに、彼はまだ気付かない。



「はい。魔物の討伐なんですけど、皆さんお忙しくていける方がいないんです・・・」

「それで俺に、か」

「行ってくれますか・・・?」

「ああ。任せてくれ」

「ありがとうございます!」



女性から頼まれた以上、無下にはできない。

そんな考えが頭をよぎった俺は、迷わず引き受けてしまった。

まあ、ルークを探しながら魔物を倒していけばいいか。

そんな軽い考えで、俺は外へと歩き出した。









クエスト内容に書いてある場所にたどり着く。

しかし、なるべく急いできたせいか頭がガンガンと痛む。



「そういえば、風邪引いてたな・・・」



今更な事実を思い出したとき、周りには今にも襲い掛かってきそうな魔物。

まさか、こんな大量の気配にも気付かないなんて。



「やるしかない、な・・・」



霞む視界を強く目を瞑り無理やり晴れさせる。

こんなところで、負けるわけにはいかないんだよ!



「獅子戦吼!」



獅子の気を放ち、魔物に電撃を与える。

その隙に魔物が攻撃してくるのを、ギリギリで横に跳びかわす。

しかし、着地地点に魔物がいることに気付かなかった。



「ぐぁ!」



魔物の一撃が肩にあたる。

なんとか体勢を立て直し魔物を倒していくものの、魔物の数は増えていく一方。



「こりゃやばいな・・・」



さきほどよりも霞む視界に、限界を感じる。

そんな俺にじりじりと近寄ってくる魔物。

正直、身体を動かすのもつらい。



「、くそ・・・!」



小さく悪態をついた瞬間、魔物が一斉に襲い掛かってくる。

とっさに目を瞑ったその時、背後から聞きなれた声が聞こえた。



「蒼破刃!」



目を開けるとそこには、黒い髪をなびかせた男。

その向こうでは襲い掛かってきた魔物たちが倒れている。



「ユーリ・・・?」

「よ、大丈夫か?」



名前を呼べば、にやりと笑いながらこちらに振り向く。

いきなりの登場に目を見開きながらも、どうしてここにいるのか口を開く。

だが、先に声を発したのはユーリだった。



「ジェイドがお坊ちゃんが一人で外に行ったから追いかけろとか言うから、探しに来て見れば・・・。

 ったく。熱があんならクエスト受けんなっつーの」

「すまない・・・。それより、ルークは!?」

「ちゃんとバンエルティア号に返した」

「そうか、良かった・・・」

「はあ・・・。自分の心配しろっての。ほら、よ」



呆れながらも俺を支えてくれる。

どうやらそうとう熱があったみたいだ。

おかげで、ほとんど体重をユーリにかけてしまっている。



「ユーリ、ありがとな」

「いいって。それより、これに懲りたならもう無茶すんなよ」

「善処するよ」



二人で笑いあいながら、バンエルティア号へと踵を返した。

本当に、ありがとな。ユーリ。









(それよりユーリ、ルークを返したってことはバンエルティア号に行ってからもう一回来てくれたのか?)
(いや、途中で放っといた)
(は?)
(オレが来たことに不満なのか、グチグチ文句言うもんだから放っといた)
(ユーリ・・・!)
(はいはい、言いたいことはわかってるからもうちょい踏ん張れ)





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