旅立ち



「水道魔導器(アクエブラスティア)も、水漏れ通り越して止まっちまったみたいだな」

「ああ、魔核(コア)がなくてはどうにも動かん」



ようやく私の頭から手を離したユーリと私を無視し続けたハンクスさんは

水道魔導器(アクエブラスティア)を見上げる。

あー痛い・・・。たぶん今頭が四つくらいに割れてると思う。



「残りの水で、しばらくは大丈夫だよな?」

「ああ、じゃが、長くはもたんよ。後は腹壊すの承知で川の水を飲むしかないのかの・・・」

「大丈夫だよ!ね、ユーリ」

「騎士団は何もしてくれねえし、やっぱ泥棒本人から魔核(コア)取り戻すしかねえな」



下町代表のニート兄貴ならそう言うとわかってましたよ!

やばい俺ユーリのこと超理解してるグヘヘヘヘヘヘヘ



「まさかモルディオを追って結界の外にでるつもりか?」

「心配すんなよ。ちょっくらいってすぐに戻ってくっから」



まあ、そのちょっくらから大変なことに巻き込まれていくんだけど。

これぞ主人公の特権、だね!



「はん。誰が心配なんぞするか。ちょうどいい機会じゃ。しばらく帰ってこんでいい」

「はあ?なんだよそれ」

「お前さんらがいなくてもわしらはちゃんとやっていける」



・・・ん?お前さん「ら」?

え、私も行くこと前提で話してるの?私の意見無し?いや行くけど。



「フレンも言っとったぞ。ユーリがいつまでこの生活をつづけるのかとな」

「・・・余計なお世話だっての」



さすが幼馴染み。・・・いや、恋人か。

きっと二人は周りには言えないような関係で、

フレンは早く自分を安定させるような収入を得て欲しいと思っているんだな、なるほど。



「ユーリ・ローウェル!そしてその彼女!よくも可愛い部下を二人も!お縄だ!お縄につけ〜!!」

「誰が彼女だゴルァ!!ユーリの彼女はフレンなんだよバカヤロウ!!」

「ちょっと待て。どさくさに紛れて何言ってやがる」



これだから頭の固いルブランさんは・・・。

どう考えてもフレンが彼女に決まってんのに。

はっ!まさかフレンを嫉妬させるためにわざとああ言っているのか!?

な、なんて策士だ・・・!



「・・・ま、こんな事情もあるからしばらく留守するわ」

「やれやれ、いつもいつも騒がしいやつらだな。これで金の件に関しては、貸し借りなしじゃぞ」



あれ?私も騒がしいの?

私のささやかな疑問を残し、周りでは肩を回したりシャドーボクシングをしたりと、

なにやら戦闘準備をしているようだ。



「年甲斐もなくはしゃいでぽっくりいくなよ?」

「はんっ、おまえさんこそ、のたれ死ぬんじゃないぞ」



皮肉皮肉のオンパレード。まあこれもヴェスペリアの特徴か。

そう考え頷いてると、ふいに何かに腕を引っ張られる。



「行くぞ、ユイ」

「ちょ、待って待って!腕引っ張んないでくれないかなぁ!歩幅が違うから走りにくい!」

「足みじけぇな」

「なんだとおおおおおおおおおおおお!?」



会話をしながら走っている私たちにエステルは追いつき、一緒に走る。

後ろでは下町のみんながルブランさんを囲み、話しかけて足止めをしてくれている。

そんなみんなに三人で笑うと、正面からさらに他のみんなが来た。って多!



「彼女を泣かせるんじゃないよ!」
「ユイ!ユーリに飽きたらいつでも戻って来い!」
「ユーリ!早く告白しろよ!」

「なに、勝手なこと言ってんだ。・・・って、ちょ、押すなって!今、叩いたやつ、覚えとけよ!」

「すいませえええん!どさくさに紛れて腰を撫でるのはやめてくれませんかねぇ!?」



ホントやりたい放題だな。楽しいからいいけども。

好き勝手言ってルブランさんの方に走っていったおかげで、ようやく解放された。



「ユーリさんもユイも皆さんに、とても愛されてるんですね」

「冗談言うなよ、厄介払いができて、嬉しいだけだろ?」

「またまた〜。照れんなよ〜」



まったく、これだから素直じゃないやつは。

まあそれがユーリと言っても過言ではないな、うん。



「ちょ、おい・・・!誰だよ、金まで入れたの!こんなの受け取れるか」



どうやらみんながほいほい持たせた荷物の中にお金があったらしい。

お金を返そうとユーリが振り返った時。



「ええ〜い!待て〜!どけ〜い!」

「・・・とりあえず、一旦もらっといたほうがいいと思う」

「・・・だな」



そう話している間にルブランさんは追いついてきて、

あの人ごみの中を抜けてきたのかと思うと普通にすごいと思ってしまった。

もう少しで追いつくというところで、路地裏から出てきた影にルブランさんは転倒。お疲れ様です。



「な、なにごとだ!」

「ラピード・・・狙ってたろ。おいしいやつだな」

「さすがラピード!かっこよすぎて惚れそう!」

「犬?」



路地裏から出てきたのはラピードで、こちらを静かに見ている。何このイケメン!

クエスチョンマークを浮かべているエステルに、ユーリは口を開く。



「じゃ、まずは北のデイドン砦だな」

「え?あ、はいっ!」

「どこまで一緒かわかんねえけどま、よろしくな、エステル」

「今まで以上によろしく、エステル」

「はい・・・え?あれ?・・・エス・・・テル?」



おお、これでやっとエステリーゼからエステルと呼べるのか。

エステリーゼって長いし呼びにくいんだよね。



「エステル、エステル・・・」



本人はニックネームで呼ばれたことがないのか、言われた名前を連呼している。

なんかヤンデレみたいだな。

しばらくすると、エステルは顔を上げ、今まで見た中で一番の笑顔を向ける。



「こちらこそよろしくお願いします、ユーリ!ユイ!」



新しい呼び名も決まったとこで、お世話になった下町を振り返る。



「しばらく留守にするぜ」

「行ってきます」

「行ってきまああああああああああす!!」



そして、私たちは結界の外へと足を踏み出した。





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