脱出成功



用水路を進むとはしごがあった。

これを上れば外に出られるだろう。



「んじゃ、ユーリ先上ってよ」

「なんで?」

「どこに出られるか、そこが安全か確認する任務が君にはあっただろう。

 忘れたのか?」

「・・・はいはい」



私がよくわからない威厳を保ちながら言えば、

ユーリは呆れたようにはしごを上った。

上っていったユーリを見て、次にエステルを見る。



「次、エステリーゼね」

「どうしてです?」

「エステリーゼが一人で残ったらさ、心配すぎて私が落ちてくるよ」



言いながら思う。それは魔物より怖いのではないか?

・・・うん、怖いな。いや、ヤバイな。

色々考えていると、目の前のエステルに手を握られた。



「わたし、嬉しいです!」

「へ?」

「そんなふうに心配されたの、初めてです!」

「そっか。じゃ、お先にどーぞ!」

「はい!」



エステルは大きく頷き、はしごを上っていく。

エステルがはしごを上りきったのを見て、

ぐるりとあたりを見回してから、私もはしごに手をかけた。






「ぐあぁ!目が!目があああああああああ!!」



先ほどまで暗い所にいたせいか、

はしごを上った直後、凄まじい太陽光に目が焼ける。

痛い!目が痛いよ!そしてついムスカの真似をした自分も痛いよ!



「大丈夫か?」

「・・・痛いです」

「んじゃ消毒を・・・」

「痛くないですごめんなさい大丈夫です」

「ちっ」



あの時の消毒をされたら、今度こそ私は爆発してしまう。

全力で拒否すれば、舌打ちされました。

・・・そんなに私の反応楽しかったか。

ようやく明るさに慣れてきた目でユーリを睨むが、

ユーリは気にせずあたりを見回す。



「あ〜あ、もう朝かよ。一晩無駄にしたな。・・・貴族街に繋がってんのか」

「窓から見るのと、全然違って見えます」

「そりゃ大げさだな。城の外に来るのが、初めてみたいに聞こえるぞ」

「・・・そ、それは・・・」



エステルはユーリの言葉に、迷ったように視線を泳がせる。

一方ユーリは、エステルを探るように瞳を細めている。



「あれじゃね?お城に住んでるんだから勝手に出歩けないとか」

「は、はい、そうなんです」



でもいいよねー、城に住むって。

私もそこで王子様に会って色々やりたいよ、色々。



「ま、とりあえず脱出成功ってことで」

「とりあえず、だけど」



少し皮肉を交えながら、右手を上げたユーリに右手でハイタッチをする。

ユーリは小さく笑いながら、次はエステルだと言わんばかりにエステルに身体を向ける。

エステルはユーリの右手を見て何を思ったのか、

自分の人差し指をユーリの手の平に当てた。天然萌えええええええ!!



「あはは・・・」

「あ、あの、なにか間違えました?」

「全然!むしろその行動、おいしく頂きましたああああああ!!」

「た、食べたんです!?」

「違ぇから」



相変わらずずれた反応をしてくれるエステルに、ユーリが素早く突っ込む。

いいよね、天然。無自覚なのが最高すぎる。



「マジかわゆすハァハァ」

「え、えっと・・・、ありがとうございます!」

「褒めてないだろ、あれ」

「ユーリかっこゆすハァハァ」

「褒められましたよ、ユーリさん!」

「変態に褒められても嬉しくねぇよ」



貴族街、貴族サマのお宅の前でふざけた会話を繰り広げる脱獄者たち(一人のぞく)。

道行く貴族サマは興味すら示さない。



「グヘヘヘヘヘヘヘ・・・」

「ふふふっ」

「・・・はあ」



女子二人が笑い合う中、ユーリの溜め息は果てしなく青い空へと消えていった。





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