提案
「セピア、オレと一緒に旅に出ねえか?」
「旅?」
「ああ」
世界に平和が戻り、人々は毎日必死に生きている。
私もその一人で、治癒術士だった私は、
今は医者として下町で暮らしている。
本当は、色んな町に行って苦しんでいる人を助けてあげたい。
でも、私には魔物と戦うほどの力は無い。
だから微かにやりきれない気持ちを持ちながら過ごしている。
そんな時、この世界を救った、私の恋人でもあるユーリが
ある提案を持ち掛けてきた。
「旅って・・・。どうしたの?急に」
「いやさ、おまえにも色んな『世界』を見て欲しくってな」
「そっか」
「で、どうだ?」
「もちろんいいよ」
ずっと他の街に行きたい、と思っていた私にとって、
またとないチャンス。
ユーリの提案には大賛成だ。
「よし。じゃあ行くぞ」
「え、もう?」
「当たり前だろ?ほら、早く準備しろって」
そうだ。私の彼氏は『決まったら即行動』主義だった。
相変わらずのユーリに笑いながら、私は下町を出る準備に取り掛かるのだった。
この旅で、自分が身を裂くような痛みを味わうなど、
この時の私には知る術もなかった・・・。
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